狂乱の夜-2
「ミノ……」
「へい……」
「知ってて教えなかったテメエが一番悪い……」
「へい。」
和磨の声に怒気はない。
それだけに不気味だった。
箕田は愁傷に俯き、両手を後ろに結んで、立った。
一見すれば、その姿はヤキを入れられるのを待っているかのように見える。
だが、隙はなかった。
和磨は薄く笑った。
こいつだけは、どこか違う。
とっくに気付いていた。
「反省は、これからの働きで返してもらう……」
「へい……。」
それだけをいって、和磨は箕田に背を向けた。
地べたに転がっているタンとハツを見下ろしながら、つま先でふたりの頭を軽く小突いた。
「いいか、よく聞け……。さっそく、これからテメエらに一働きしてもらう。中身は簡単な仕事だ。ガキと女をかっさらってくる。それだけだ。オメエらには得意な仕事だろ?」
タンとハツは、ガキの頃から連む極悪コンビだ。
悪さばかり繰り返してきた挙げ句に人さらいのプロになった。
「荒事じゃねえ。粛々とやるんだ。粛々ってわかるか?こっそりやれってことだ。
部屋に押し込むのはタンとハツ、オメエら二人だ。
邪魔はいねえと思うが万一に備えてミノは後衛に回れ。
俺とトリは車の中で待ってる。
ドジ踏むんじゃねえぞ……。
これ以上手間掛けさせやがったらテメエらほんとに殺すからな……。」
淡々としゃべっているだけに恐ろしさは倍増した。
タンとハツは、歪んだ顔で和磨を見上げながら、何度も頷いた。
「こっからすぐそこのアパートだ。そこの2階にツグミとガキはいる。
鍵の心配はねえ。どこに隠してあるかはわかってる。
こっそりと忍び込んで素早くさらってこい……いいな?。」
目の前に立っていたのは人間の姿をしたティラノサウルス。
「俺は待ってるあいだ、お前らが連れてきた玩具で遊ばせてもらうことにするわ。いつまでも寝てねえで、さっさと起きろ。行くぞ……」
言い終えて、和磨はハマーの中に顔を突っ込んだ。
後部座席に横たわっている少女を引っ張り出した。
「トリ……あとはオメエが仕切れ……」
「へい……。」
取りあえず新しい玩具があって助かった。
肩に少女を担いで和磨がベンツに戻っていく。
あの玩具がなければ、和磨の怒りは、トリヤマにも向かっていたことだろう。
転がっていたふたりが、のそのそと立ち上がる。
なんにせよ、このバカどものおかげで、時間はそれほどありそうにない。
「テメエら、今度勝手な真似なんかしやがったら、オジキの前に俺が殺すからな……」
ようやく立ち上がったタンとハツにトリヤマがすごんだ。
「それとな、ツグミをさらったらオジキの車に乗せろ。
ガキはお前らのほうに乗せるが絶対に手なんか付けるんじゃねえぞ。
ガキの初モノを食うのはオジキと決まってんだ、楽しみにしてるんだから、ちょっとでも手なんか付けたら、テメエ等なぶり殺しどころじゃ済まねえからな。
それを忘れんな。」
万が一、女どもに手を付けたりしたら、今度こそ間違いなくこのふたりは消される。
「まったくバカどもが、手間ばっかりかけさせやがって……」
「すんません……」
しおらしく頭を下げる二人の足元につばを吐き、トリヤマは忌々しそうにベンツに戻った。
車内に顔を入れると、早速、和磨は後部座席で新しい玩具を弄んでいる。
「なかなか器量はいいな……」
小さな頭を鷲掴みにしてじっくりと眺めた後、長く伸ばした舌で、まだ意識の戻らぬ少女の口を犯しにかかった。
いずれこのガキもオジキの傀儡にされる。
幸福だった過去も忘れて、ひたすらオジキを欲しがるだけの牝犬にされるのだ。
あのツグミのように……。
ルームミラーで後部座席を確かめてから、トリヤマはベンツのキーを回した。
エンジンに火が入り、重厚なノイズが漆黒の闇に響きわたる。
さて、行くかい。
すぐ、お迎えにいってやるからな……。
待ってろよ、ツグミ……。
男たちの欲望を乗せた2台の車が、最後の目的地を目指して、ゆっくりと動き出した。