遠き日々-20
約束の日、わたしは指定された時間に木戸口の裏に立った。
ひとりだった。
コトリは置いていくと決めていた。
あの子にはまだ早い。
それに誰も面倒なんて見てくれない。
連れて歩けば見つかる可能性も高くなるし、また同じようなことをする客が現れる危険性だってある。
だから、あの子は置いていく。
それが、父に出した条件だった。
施錠を外すなんてトリヤマ達には簡単なこと。
ガチャガチャと音がして、すぐに木戸口の戸は開かれた。
そこに待っていたのは、トリヤマとタンと父の3人。
「ずいぶんと遊んでたな……。客が首を長くして待ってるぞ……。」
父は怒りもしなかった。
わたしがひとりなのを見ても、なにもいわなかった。
いずれ奪い返せる。
あの子は、父の子供。
なによりも大事な父の血を受け継ぐ、たったひとりの愛しい娘。
父にしてみれば、こんな所から奪い返すなんて、簡単なことと思えたに違いない。
だから、条件を呑んだ……。
「ああっ!!お許しくださいっ!!……お許しくださいっ!!」
Thrushに戻って、最初に待っていた客は、あの男だった。
「このクソガキがっ!俺のものを噛みやがってっ!ぶっ殺してやる!」
逆さ吊りにされて、鞭で打たれた。
膣が裂けそうなほど大きなバイブを押し込まれて、何度も気を失った。
「ぼっちゃん、その辺で許してやっちゃくれねえかい?これでも、うちじゃ一番の人気商品なんだ。代わりはちゃんと用意してやるからよ、その辺でもう勘弁してくれや……。」
父が取りなして、ようやくわたしは許された。
「なにもさらうなんてコトしねえで、最初からいってくれりゃよかったんだ。あんたのオヤジさんには、うちも世話になってるからよ、いってくれりゃ、ちゃんと用意してやったんだ。まあ、今回は痛み分けってことで、おとなしく引いてくれや……。」
すごんだ父に、あんな卑屈な男がかなうはずがない。
「テメエのせいで大事な商品をひとり持っていかれた……。あんなクズ野郎に手塩に掛けた娘をみすみす渡すハメになっちまったんだ。この代償はデケえぞ……。」
声も出ないほどぐったりとなっていたわたしの髪を掴んで、父はすごんだ。
「今まで以上に働け……、死にものぐるいで客を取れ……。」
狂気を宿した瞳に睨まれて、わたしは唇を震わせながら頷いた。
素直になれば、父は怒らない。
「そうだ……。良い子だ……。お前は良い子なんだ……。ちゃんとパパのために尽くせる子だ……。そうだな?」
「はい……。」
「パパのためなら、なんでもできるだろう?」
「はい……。」
「パパのことが、大好きでならないんだよな?」
「はい……。」
知らず知らずに涙が溢れていた。
ずっと小さな頃から、父にささやかれてきた言葉。
父のためならば、なんでもする。
どんなことでも、我慢する。
わたしたちはそうやって、幼い頃から躾けられてきた。
泣いたのは怖かったからじゃない。
優しい父が、目の前にいたからだ。
「痛かったか?」
「うん……。」
「パパに可愛がってもらいたいか?」
「うん……。」
「パパに愛してもらいたいなら、愛してるというんだ。」
「愛してます……」
「どのくらい?」
「世界中の誰よりも愛してます……。」
「パパが一番いいか?」
「はい。」
「お前は、誰のものだ?」
「パパのものです……。」
父に愛してもらうための通過儀礼。
絶対服従を近い、心を込めて懇願する。
そうしなければ、愛してもらえない。
「ああっ!!パパっ!パパっ!!」
痛みなんか、どこにもなかった。
背中の痛みも、アソコの痛みも、父に愛してもらえるなら、すべてが消える。
それだけの気持ちよさを与えてくれる。
「ああっ!!パパっ!気持ちいいよっ!気持ちいいよぅっ!!!」
どうしようもないほどに狂わされて、愛された。
そうやってずっと父に飼われていたわたしたちに、逆らう術なんてありはしなかった。
「なんでもしますっ!パパのためなら、なんでもしますっ!」
わたしたちは父の奴隷。
「なんでもするからもっと愛してっ!どんなことでもするから、もっと可愛がってっ!!」
父のためなら、なんでもするセックスドール。
それが、あのホテルにいたわたしたち……。
それからの4年間、あの重丸の手引きで逃げ出すまで、わたしは父に尽くし抜いた。
命じられるままになんでもした。
疑問に思い、躊躇ったこともあるけれど、父に愛されたあの時間は、確かにわたしにとって、幸せと呼べるひとときだった……。