重丸の苦悩-6
何よりも殺人と未遂では心の傷が絶対的に違う。
生きているならば反省をして立ち直ることもできるが、人を殺してしまえば、それは生涯消えることのない傷となって残る。
「それで、そのガイシャの身元は?」
「まだ、はっきりしたことはわからねぇ。それは、これからこっちで調べるが、どうにも、ここら辺りの男じゃねえようだ。」
「なぜ、わかる?」
「運転免許があった。おそらくガイシャのもんだろう。免許の住所は北海道になっていた。それをこれから確かめる。」
「北海道?また遠いな……で、ガイシャとあの子の関係は?」
「さあな。それもこれから調べるんだ。だが……。」
「だが……なんだ?」
「ガイシャの野郎は、2日前からこのホテルに泊まってた。ひとりでだ。
それが今日になって、いきなりダブルに切り替えた。それが、現場になったあの部屋だ。
あの娘は、今日の昼丁度ぐらいにガイシャに会いに来たらしい。
でかいトランクを引いていたから、目立ったらしく、フロント係がはっきりと覚えてた。
ロビーでガイシャと待ち合わせしてたそうだ。」
「ダブル……トランク……。親子か?」
父親が先に来ていて、娘が後から訪ねてくる。
どんな経緯があったかはわからないが、激情に駆られた娘が衝動的に父親を刺してしまう。
あの年代の女の子は、いったん衝動的になると気がふれたようになる傾向が強い。
ならば、メッタ刺しというのも何となく肯ける。
だが、一課の刑事は首を強く横に振った。
「親子じゃねえよ……。」
「なぜ、そうだと言い切れる?」
「なんでかって?」
刑事の顔にいやらしい笑みが浮かんだ。
「ガイシャが親父なら、あの娘はガイシャが10歳前後でつくったことになる。」
「ガイシャってそんなに若いのか!?」
「ああ、免許を見た限りじゃ、まだ二十歳だ。確かに顔も若そうだった。おそらく免許通りの年齢だろう……。」
「じゃあ、兄妹か?」
「いや、それも違うな……。
確かにガイシャは、ダブルに切り替えるときに、妹が来るから、とフロントには言ったそうだ。
ツインもありますが、と勧めたら、料金が掛かるのでダブルでいいと答えたらしい。
しかし、奴の財布の中には、30万近い札が入っていた。
人それぞれだから一概には言えねえが、わずかな金をケチるのは、持ってた金の額に比べりゃ納得がいかねぇ。」
「それが、兄妹じゃない理由になるのか?」
「まだ、わからねえのか?にぶい野郎だな。」
「なに?」
「そう尖るなよ。あの娘がトランクを引いてた、ってのは言ったな。」
「ああ……。」
「そのトランクは、ガイシャの部屋にあった。ピンク色の奴だ。
おそらくあの娘が引いてたトランクに間違いねえだろう。
中身がなんだったか、わかるか?」
「いや。」
「服が入っていた。ロリータっていうのか?今、東京辺りじゃ流行ってんだろう?あのヒラヒラしたドレスみたいな服さ。」
「服?……。だが、それだけじゃ、兄妹じゃないって証明にはならんと思うが。」
「まだある。」
「なんだ?」
刑事が、初めて正面からシンドウの顔を見据えた。
「バイブが5本と手錠が入ってた……他にもローションとか色々な。」
「そ、それって!?」
刑事が、満を持したように口を開いていく。
「ああ、たぶんウリ(売春)だろう……。」