投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

可愛い弟子
【ロリ 官能小説】

可愛い弟子の最初へ 可愛い弟子 182 可愛い弟子 184 可愛い弟子の最後へ

ヨーダとシノ-4



「お久しぶりですね。」

彼女が軽く微笑を浮かべただけで、それまで無機質な空間でしかなかった病室が、急に華やいだように明るくなる。

美人って、すげっ!

「こんちは♪」

ほんとに彼女に会うのは、久しぶりだ。

今年は、大社祭の奉納試合も観に行かなかったから、去年の試合以来の再会となる。

「お父さん。……野呂先生の奥さんは、着替えを取り家に戻るそうです。送ってあげた方がよろしいかしら?」

シノちゃんは、花瓶を枕元近くのキャビネットの上に飾りながら、シゲさんに訊ねた。

うーん、父親に敬語。

まさしく大和撫子の鏡だね。

……ん?

野呂先生?

先生?

「あれ?シノちゃん、野呂課長を知ってるの?」

てっきり、シゲさんの付き添いで来たものとばかり思っていた。

「あら?タカさん知らないんですか?私もお父さんも、野呂先生に剣道を教えて頂いたんですよ。」

「え?」

「野呂先生は、私とお父さん、ふたりのお師匠さんなんです。だから、倒れたと聞かされたときには、もう、心臓が止まるかと思うほど驚いちゃって。でも、それほど大事にならなかったようなので、本当に良かったです。」

後半部分は、ほぼ耳を素通り。

え?師匠?

これが?

このヨーダが!!?

春雷重丸と現役女子剣道チャンピョンの師匠だって!!!?

「シノ、おしゃべりはそのくらいにして、早く奥さんを送って差し上げろ。」

シゲさんが、不機嫌そうな声を出した。

いかにもマズイといった渋面になっている。

なに?オレに聞かれちゃやばい話しなわけ?

「あ……すみません。それじゃ、私はこれで……。」

シノちゃんは、なんで怒られたのかわからない様子。

そばに置いてあったイスの上から、バッグを手にすると、すぐに彼女は部屋を出て行こうとした。

だが、何かを思い出したように、部屋の隅に置いてあった紙袋から、小さな箱を取り出すと、それをオレに向かって差し出した。

「あの……これ、よろしかったら……。
 父の以前の赴任先の方から送っていただいた物なんですけど、お嫌いでなかったたら、お召し上がりになりませんか?
 野呂先生が、お好きなお菓子なので持ってきたんですけど、三つもあるので、おひとつタカさんに差し上げます。」

そう言いながら、彼女が手渡してくれた箱の包み紙を何気に見て驚いた。

カラー印刷された、いかにも郷土名物的な土産物の包み紙には、オレがシホの部屋で見た、写真の門が誇らしげに写っている。

あの門だ……。

コトリを胸に抱いていた男の背後に構えていた門。

間違いない。確かにあの門だ。

だが、なんだ?

妙な違和感がある。

形は、あの門に間違いない。

しかし、なんだこの違和感は?

その門の写真の上には『青森銘菓 朱院門まんじゅう』と書いてあった。

青森銘菓!?

青森……?

シゲさんの前の赴任先?


……………………。

……………………。


そうだ!!思い出した!!!!



『シゲさん、ここに来る前って、どこにいたの?』

シゲさんと知り合ったばかりの頃、飲み屋で交わした会話だ。

『スゲえ、雪のあるところだ。』

シゲさんも、相当飲んでて、かなりデキていた。

『北海道?』

『いーや、途中下車だな。』

『じゃあ、青森だ。』

『はは、そんなところだ。』

『のわりには、方言でないね。』

『んだべ。』

『なにそれ?』

『津軽弁で、そうだろう、って言ったのさ。オレは元々、向こうの生まれじゃないからな。』

『じゃあ、どこの人なの?』

『九州さ。熊本の生まれだ。』

『へぇ、九州から青森なんて、また遠くへ行ったね。』

『人間なんて長くやってるとな、色々あるもんさ……。』



4年前の会話だ。

オレも酔っぱらっていたから、すっかり記憶の底から抜けていた。

そうだ、思い出した。

シゲさんは、4年前に青森からオレたちの街にやってきたんだ。

だから、コトリの「雪のあるところ」という言葉に、妙な引っかかりを覚えたんだ。

そして4年前という符号。

待てよ……それに確かシゲさんは、熊本の生まれって言ってたよな。

熊本……。

(熊本よ。ここに来る前は、熊本に住んでいたわ……。)

そうだ……シホだ。

シホも、熊本という地名を口にした。

まったく先の見えない糸だった。

だが、その糸は、全てがシゲさんへと繋がっている。

オレは、シノちゃんのくれた箱を手にしながら、思いのほか鋭い目でシゲさんを睨んでいたのかもしれない。

「じゃあ、お先に失礼しますね。」

何も知らないシノちゃんは、明るく手を振りながら、病室を出て行った。

彼女が、居なくなると、驚くほどの静寂さが訪れた。

さあ、シゲさん、洗いざらい話してもらうよ。

もう煙に巻くのは、なしだぜ……。

シゲさんは、オレの視線に気づくと、小さなため息を吐き、そして、諦めたように、静かにまぶたを閉じていった……。


可愛い弟子の最初へ 可愛い弟子 182 可愛い弟子 184 可愛い弟子の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前