わずかな光-2
ケータイの着信に気づいたのは、ファミレスを出たときだった。
あちゃ!シゲさんだ。昼間じゃねえか!
え……と、コトリと合体してた時間だよ……。
ばれたら真っ二つに割られんな……。
「どうしたの?」
ケータイを眺めていたオレに気づいて、シホが声を掛けてくる。
「誰?重丸さん?」
まったく……お前はエスパーか!!
怖すぎるんですけど……
「い、いや、全然違う人。」
シホは、オレとシゲさんが繋がるのを嫌う。
やっぱり、怪しいよな。
「どうする?このまま帰る?」
ケータイをしまってからシホに訊ねた。
時間は、まだ夕刻を過ぎたばかり。
「うーん、買いたい物があるのよね。」
「なに?」
「あのね……。」
シホがぷっくらとした唇を耳元に寄せてきた。
「したぎ♪」
そう言って悪戯っぽく笑ったシホのなんと可愛らしかったこと。
だめ……怪しくてもいい。このまま、すぐに押し倒したい。
「コトリも欲しいー。」
聞こえてたらしい。
「いいわよ。どんなのがいいの?」
「ハイレグ。」
……お前、意味わかってんのか?
でも、下着じゃ一緒に行けないな。
「あら、別にいいじゃない。一緒に行きましょうよ。」
「いや、クルマも取りに行かなきゃならないから、オレは、ちょっと友達の所に顔出してからアパートに帰るよ。」
今日のお出かけは、シホの軽。
愛車は、レンのマンションに停めたまま。
「友達って、例の……」
シホの顔がわずかに曇る。
「ああ……。」
コトリが倒れたマンション。
謎のビデオを手に入れた、引き籠もりの友。
で、思い出した。
「あ、それとさ……例の件、今夜頼める?」
「えっ?……ああ……いいわよ。」
キョウコの行方を探す作業。
コトリをぶっ倒したDVD鑑賞会。
シホには、すぐにわかったらしい。
「今夜って、何?」
わからないのはコトリだけ。
不満そうな顔して睨んだりしてる。
「エヘヘヘ……いいコト。」
ちょっと意地悪っぽく言ってみたら、ふくれっ面。
「コトリもする。」
だめ、また泡吹いて倒れるから。
げへへっ、そうだ。今夜からは晴れてふたりを相手に親子丼が。
オレのためならなんでもすると誓ったシホ。
半分オレをシホにやると言ったコトリ。
まったく問題なし!
ついに近づいた夢のハーレム!
でも……。
今夜はだめね。
お兄ちゃん忙しいの。
それに、お前だって、まだ痛いでしょ?
「道場の話だよ。お前の練習日を増やそうかって、ママと相談してるんだ。
お前も話しに加わる?」
「いや、いい。遠慮しとく。」
意外と練習嫌いなわがまま娘。
「じゃあ、私たちは買い物に行ってからアパートに帰るね。」
まだ、早い時間だし、買い物なら人目もあるから心配ないよな。
「わかった。じゃあ、オレも友達の所に寄ったらまっすぐに帰るから。」
嘘だけど。
レンの所から、その足でシゲさんにも会うつもりだった。
シゲさんは、何かを知っている。
そして、オレに隠していることがある。
それを聞かなきゃ、オレは、コイツらを守りきる自信がない……。