嵐の始まり-2
脳裏から離れない浴室での光景。
コトリの性器に、当たり前のように口をつけていたシホの姿。
普通じゃ……ねえよな……。
まさしく尋常じゃ考えられない。
母親が、幼い娘の性器を舌で愛撫する。
そんなこと、並の神経で出来ることじゃない。
なんなんだお前?
知れば知るほど、シホという女の素顔がわからなくなる。
オレがコトリに何をしていたのかも、すべて知っていた。
知っていて、ずっと見逃していた。
(タカ君のために、エッチな子になるんでしょ?)
オレのため?
確かにコトリは、オレのために一生懸命だったかもしれない。
今、目の前にいる、この小さな女の子は、オレを受け入れようと必死だった。
だが……。
「どうしたの?タカ君、食べないの?」
シホの心配げな目が向けられる。
「あ、ああ……なんか、見てるだけでお腹いっぱい。はは……。」
ほんと……メシを食う気分になんかなれねえよ。
コトリのケガが気になって、浴室では思考を巡らすことが出来なかった。
しかし、落ち着いた今となっては、あの状況がどれだけ異常だったかが、わかる。
あり得ねえよな……。
シホに翻弄され、喘いでいたコトリ。
繊細な指使いで、瞬く間にシホは、コトリを忘我の彼方へと追いやり、コトリは、夢中になりながら、腰を浮かせてまでシホの舌を欲しがった。
オレに与えるために、あそこまで慣らしたのか?
違う気がする。
シホは、コトリの身体を知り尽くしていた。
コトリは、当たり前のようにシホを受け入れた。
なんの躊躇いもなかった。
オレが見ていたから、わずかに恥ずかしがっただけ。
シホのする行為に、まったくといっていいほど抗いもしなかった。
仮に、オレに与えるためにシホが慣らしていたとしても、あの従順すぎる態度は肯けない。
それに、あの過剰な反応も異常すぎる。
昨日や今日で、出来ることじゃない。
目の前で繰り広げられた官能的なショーを眺めているうちに、ふと、胸の中に生じた疑問。
ひょっとして……コトリは、オレと知り合う前から、ずっとシホにそういったことをされていたんじゃないだろうか?
本当に、おマセな子だった。
初めてホテルに連れて行ったときも、コトリはオレを怖がったりしなかった。
慣れていたから……。
そう考えれば、コトリのあの積極的な態度も肯ける。
だとすれば、なんのためにシホは、コトリを?
仲のいい親子だ。溺愛といってもいい。
だが、それだけが理由ではないような気がする。
脳裏に、ぼんやりと浮かんでいたキョウコの顔。
そして、母親に犯されながら、気持ちいい、と叫んでいた娘の姿。
誰かに……与えるため……?
キョウコの娘は、母親の手によって男たちに差し出され、そして欲望を処理するための受け皿にされた。
コトリは、あれと同じシリーズの女の子を知っている、とオレに告げたあと、倒れた。
バラバラだったはずピースが、なぜか頭の中でひとつの形を成そうとしていく。
目の前に座っているのは、謎多き女。
はは……まさかね。
無理に考えを封じ込めようとした。
そのとき、不意に耳に蘇ったシゲさんの声。
(あの女には、気をつけろ……。)
突然湧いた華やかな笑い声が意識を削ぐ。
「ママ、食べ過ぎぃ」
「イイじゃない、美味しいんだから♪」
目の前で笑っていたのは、虫も殺せぬようなあどけない顔をした女。
澱(おり)のようにシゲさんの声が、胸の奥底に沈んでいく。
ああ、そうするわ、シゲさん……。
オレもちょっと、気を引き締めるよ。
晴れてコトリを手に入れ、気持ちはずっと明るいはずなのに、なぜかそこには、心の晴れないオレがいた。