嵐の前-1
第22話 〜〜「嵐の前」〜〜
市役所内、秘書課特別応接室。
オーク材で造られたダークブラウンのデスクに、無造作にケツを乗せる男。
「どういうことだ?……」
受話器の向こうから、知らされた意外な報告。
誰も聞いていないはずのに、重丸は、思わず声をひそめる。
青森からの遠距離通話。
「必要なくなった?……。」
(ええ、それまでは、矢のように催促していたのに、
急に、もう調べなくていいと……。)
「トリヤマが、そう言ったのか?」
(はい。今までの手当だと言って、金も渡されました)
気づかれたのか?……。
「アイツらの動きは?」
(倖田組の事務所は、それとなく見張らせてますが、
まだ、これといって動きはありません)
「ヤツの方は?」
(まだ、潜伏先がつかめません)
「なんとか調べられないか?」
(すいません先生、事件というわけでもないので、そんなに人が動かせないんです。
倖田組に人を張り付けるのも、苦労してるほどなんですよ)
クソ!まったく警察ってところは!
「わかった。悪いが、もうしばらく動きを見張ってくれ。
重ねて言うが、何かあったら、すぐに連絡してくれよ。」
(わかりました。こちらも、出来る限りのことはやってみます。
ですが、あまり期待はしないでください。
取りあえず、やれるところまでやってみます)
電話は切られた。
向こうの台所事情も理解はするが、とかく警察というところは融通が利かない組織だとあらためて思い知らされる。
事件になってからでなければ、彼らは動くこともできないのだ。
それでは遅すぎる……。
重丸は、受話器を置くと、窓の外に目を向けた。
和磨……お前いったい、何を企んでる……。