見えない正体-11
いきなり三隅が、組の事務所に現れたときには、さすがの和磨も驚いた。
三隅は、このとき45才。
和磨たちよりも、はるかに年長者の渡世人だった。
「もういい加減、杯を受ける気になったかい?」
後ろに、ふたりの手下を引き連れていた。
芽室に折笠と黒滝のふたりを殺されて、まだ10日も経っていなかった。
「テメエ、殺されにきたのか?……」
この時期に、敵中に乗り込んでくるなど、正気の沙汰じゃない。
和磨の組には、この男を殺したがっている血に飢えた野良犬どもが、溢れているのだ。
だが三隅には、まったくと言っていいほど、恐れがなかった。
恐れどころか、どこか勝ち誇ったような薄ら笑いさえ浮かべていた。
「まあ、そういきり立つなよ。
何もケンカをしに来たわけじゃねえんだ。
そろそろ、オメエにもこの茶番劇のカラクリを教えてやろうかと思ってよ。」
「なに?……」
「俺も、もう、うんざりなんだよ。
テメエなんざ、さっさと破門にしちまえばいいのに、
本家がどうしても首を縦に振らねえんだ。
どういうつもりなんだろうねえ。
それでだ……
こっちとしてもテメエみてえな狂犬が、
いつまでものさばってるのは目障りだからよ、
さっさと引導でも渡してやろうかって気になったのさ。」
「テメエ、なに吹いてやがる……。」
「まあ、興味があるなら、今夜8時に黒滝の野郎のマンションに来い。
そこで、洗いざらいテメエに教えてやる。」
かつての親分の名を呼び捨てだ。
それも和磨の義兄弟をだ。
こんな外道は、殺しちまってもいい。
怒りに、我を忘れて和磨は、襲いかかりそうになった。
「ああ、そうだ……女房は元気かよ?」
「なんだと?……」
不意に美羽のことを口に出されて、和磨の動きが止まった。
「へへっ……俺がよろしく言ってたって、女房に伝えといてくれや。」
そう言った三隅は、不敵な笑いを残して、事務所を出て行った。