心の傷-7
眼下に街の灯りが見える。
時間は、9時を少し過ぎたところ。
夕方に降った雨は、とっくにやんだらしい。
屋上に出ていた。
風が強い。
雨に濡れて諦めたのか、白いシーツが何枚か干しっぱなしになっている。
金網のフェンス越しに、星のようにきらめく街の灯りを眺めていた。
口にする紙コップのコーヒーが、やたらと苦くて不味かった。
まったく、オレって間抜けだ。
シホが怒るのも無理はない。
コトリは突然倒れた。
おそらく、今までにそんなことは一度もなかったのだろう。
シホの胸中は、荒れ狂う海のごとく、穏やかじゃなかったに違いない。
仲の良いふたりだ。
シホが不安に、どれだけ胸を痛めていたか気遣ってやるべきだった。
それなのにオレときたら、見当違いの過去を根掘り葉掘り。
なじられても、仕方がない。
焦りがあったのかもしれない。
何かが掴めそうな予感があった。
シホの口から東北のいずれかの名前が出てくれば、その予感は当たっていたはずだった。
だが、結果は、まったくの見当違い。
シホを怒らせただけ。
ほんとに、お笑いぐさだ……。
空の紙コップを握りしめた。
こんなときにタバコを吸う奴らは、煙で気を紛らわせるのかもしれない。
オレも始めようかな……。
そうだ……タバコで思い出した。
シゲさんに報告しなきゃ。
どんなに小さなことでもいいから、報告しろと言われていた。
コトリが倒れたのは、全然小さなことなんかじゃない。
でも、なんて説明しよ……。
エロビデオ見せたら倒れました……なんて言ったら、脳天カチ割られるな。
光のような鋭い上段からの面一閃。
しかも木刀で……。
シゲさん、真剣持ってんのかな?……。
いっそ、真っ二つに割られた方が、バカも直るのか?
直る前に死ぬな。
なかなか踏ん切りがつかなかった。
ケツのポケットから取り出したケータイを、いつまでも手のひらの中で弄んでいた。
しゃあない……取りあえず電話するか……。
諦めて、ケータイの番号を探そうとしたときだった。