記憶-5
「い、いらっしゃい……。」
「いよぅっ!」
ニート君のマンションの中。
玄関まで出てきて、わざわざアイツはお出迎え。
「タ、タカ……もう、ひとりって、誰?……」
なに緊張してる?
重度にコミュ障のコイツ。
不安な目つきで周りをキョロキョロ。
いひひひ……。
オレの後ろに隠れていたコトリ。
見て驚け。
「入れ、コトリ」
「こんにちは〜」
「きゃああああっ!!!」
コトリを見た途端に、期待通りのリアクション。
玄関先で、ものの見事な「シェー」ポーズ。
ほんと、面白えやつ。
「コトリ……コイツは、オレの中学時代からの同級生で“レン”だ。こっちは、オレと同じアパートに住んでる女の子で、コトリちゃんだ。」
「はじめまして〜。いつも主人がお世話になってます〜。」
「しゅ、主人!!?」
「はは……ジョーク。イッツジョーク……。」
どうしてコイツは、つまんないことばっか覚えるんだろうね……。
お前も、口を閉じろ。ハエが入っても知らねえぞ。
レンは、さながら珍獣でも見ているような顔つき。
ま、これだけ可愛いのはめずらしいからな。
お前のコレクションにもいねえだろ?
ちょっと鼻高々。
それにしても、おお!だいぶキレイにしてるじゃん。
いつも、そんなに散らかってないリビングだが、今日は特に、念入りにキレイにしてある。
テーブルの上はピカピカ。
山のようなお菓子が、カゴの中に詰めてあった。
コトリにどんだけ食わせる気だ?
「なあ、コトリ……隣の部屋に綺麗なお人形がたくさんあるから、見てくれば?」
話しの性格上、コトリに聞かせたくはない。
レンと、ふたりきりになりたかった。
「ちょ、ちょっとタカ……。」
なんだ?マズイのか?
それとも、ヤバイもんでも置いてんのか?
まさか、妹が隠れてるわけじゃあるまい?
「大丈夫だろ?」
「う、うん。」
「綺麗なお人形って?」
「まあ、見てくればわかるよ。」
背中を押すようにして、コトリを隣の部屋へ行かせた。
「あんまり時間がねえんだ。早速だが、わかったことを聞かせてくれ。」
時計は、5時を過ぎたところ。
いつも通りなら、シホは、今日も6時半には帰ってくる。
帰りの時間を考えれば、少なくとも6時前には、ここを出たい。
オレの切羽詰まった顔に、レンも緊張の表情を見せる。
「ああ、じゃあ、わかったことを手短に話すよ。ほんとは、見てもらいたいモノもあったんだけど、あの子がいると、ちょっと……。」
「見てもらいたいモノって?」
「う、うん……実はさ、サカイ先輩の出てたビデオって、あれ、シリーズ物なんだ。」
「シリーズ?」
「うん、他にも、あと8本、同じようなタイトルで出てるんだ。」
「それって、キョウコ……サカイ先輩が、また出てんのか?」
「いや、違う人。子供も違うね。」
「子供って……あれと同じように母親と一緒に出てるってことか?」
「そうだよ。だってタイトルが『おかあさんと一緒』だもん。」
「それが、違う人間で、9つあるってことか?」
「そう。それで、その内の1つが、昨日手に入ったから、それをタカに見せようかと思ってたんだけど……。」
「昨日?ずいぶんと簡単に手に入るな。」
「簡単じゃないよ。お金もすごくかかるし、解凍用のプログラムも必要だから。」
「それって、もしかしてネットから落とすのか?」
今じゃ、何でもネットで用事が足りる時代だ。
「うん。でもネットって言ってもインターネットじゃないよ。独自のサーバーを使った草の根的な回線だから。」
「つまり、公にはなっていない回線からダウンロードするってことだな。」
「その通り。アクセスするにも、パスワードが必要だし、アクセスしたからって、すぐにダウンロードできるわけじゃない。ダウンロードするためには、日毎に変わるパスワードを入力しなきゃダメだし、それもタイトル毎違うから、そのパスワードも必要。おまけに解凍プログラムにもパスワードがあるから、それらを全部手に入れるだけでも一苦労だよ。」
さあ、今パスワードを何回言ったでしょう?
えらい厳重なシステムだな。
「そのパスワードってのは、どうやって?」
「まず、入金して、それからメールで通知されるんだ。このメールも、どこの国から出されたものか、わからないようなメールだけどね。」
「先に金を払うのか……。よほど信用がねえと出来ねえ商売だな。」
「でも、超アングラサイトだから、その辺の信用は固いよ。」
「ふーん、お前が言うんだから間違いねえんだろうけど……。ところで、1本幾らぐらいするのさ?」
「タイトルによってマチマチだけど、サカイ先輩のは150万したよ。」
「ひゃ、150万!!?」
「まだ、新しいからね。ちなみに前に落としたヤツは80万。」
「は、80……。」