旅の始まり-5
<AM1130 キョウコの実家>
市内某所。
キョウコは、高校にバスで通学していた。
市内でも外れの方の山間部に実家があり、シホの病院からキョウコの実家までは、1時間以上の時間を要した。
まばらに建っている一軒家の中に『サカイ』という表札を探すのは簡単だった。
玄関でチャイムを鳴らすと、初老の女性が中から姿を現した。
おそらくこの人が、キョウコの母親なのだろう。
「どちら様ですか?」
どことなく面影が、キョウコに似ている。
「初めまして。私は、キョウコさんと同じ高校を卒業した者で………………」
シナリオは、初めから用意してあった。
天文部のOB会を開くという名目で、キョウコの現住所を確かめるつもりだった。
しかし、応対に出てくれた母親は、キョウコの名前を口にした途端、顔を曇らせて黙り込んでしまう。
「今のお住まいと、連絡先を教えていただきたいんですが。」
「キョウコは、その……。」
何度訊ねたところで、口ごもるだけで、うまく要領を得ない。
「ご結婚されたんですよね。どちらに嫁がれたか教えていただけると、ありがたいんですが……。」
「…………。」
「お嬢さんをお産みになって、幸せに暮らしていると伺ってますが……。」
幸せ、という言葉に母親が反応する。
「キョウコは……確かに結婚をして、娘も生みました。つい、この間までは、3人で元気に、幸せそうに暮らしてもいました……でも……。」
母親の顔に暗い影が落ちる。
「でも?でも……なんですか?」
「キョウコの夫が、半年ほど前に亡くなってしまって……。」
母親の肩が震え始めた。
ダンナが死んだ?…………。
嫌な予感がした。
「そして……」
母親が肩を震わせながら、顔を両手で覆っていく。
「そして、なんですか?……」
「に、2ヶ月くらい前から、孫と一緒に……連絡がつかなくなったんです!」
最後は、悲鳴のような声だった……。