ふたりの過去-3
「シゲさんと、知り合いなの?」
クルマが100mも進まないうちに、シホに訊ねていた。
シホは、隣りに座りながら、ぼんやりと浮かない顔で前を見つめている。
訊ねたことに気づきもしないで、窓の外を眺めているだけだった。
「ねぇ!シゲさん知ってるの!?」
大きな声で、もう一度訊ねたら、シホは、やっと気付いたようにオレに顔を向けた。
目が虚ろで、まるで魂が抜けたよう。
どうしたんだ?
「シホさん?…………。」
「えっ!?……ああ……。」
「あの人と何かあったの?」
「あ、別に……何もないわよ…………。」
そんな顔には見えないけどね……。
「どうして、シゲさん知ってるの?」
「あ、あの人は、その……そう、前に市役所で住民票を取りに行ったときに、ちょっと……お世話になったの……。」
ふーん……。
キャリアのシゲさんが、窓口で住民票を交付することは、まずない。
3年前までなら、シゲさんは、まだ1階にいたが、秘書課に移った今では彼の定位置は、4階だ。
一般の市民と接する機会もほとんどないはず。
明らかに、嘘だった……。
「ふーん。そうなの……で、体育館で何か話してたわけ?」
少しの間、姿が見えなくなったよね。
「う、うん……ちょっと……。」
歯切れが悪い……。
ってか、悪すぎる。
それ以上、シホは俯いてしまって、口を開こうともしない。
「なんか相談事?」
シゲさんは、役所の偉いさんだから、相談するよりも、される側にいる。
シホは、無言で、ずっと俯いてる。
「ねぇ、どうしたの?」
要領を得なかった。
「ねぇ、聞いてる?」
なんか胸の奥がざわざわする……。
理由が知りたい……
「ねぇ……」
「うるさいっ!!!!」
空気が震えるほどの怒鳴り声。
慌ててブレーキを踏むところだった。
一瞬にして、場が凍りつく。
大きな目を見開いて、シホがオレを睨んでいる。
唇がかすかに震えている。
膝の上に重ねた両手も、震えていた。
「ど、どうしたのさ?……」
訳がわからない……。
「お願いだから、それ以上聞かないで…………。」
シホは、そう言ったきり、また、うなだれるように俯いていく。