〈被虐少女〉-6
戦慄とは、まさにこの事であろう……傷付いた亜季を“商品”として扱い、更なる変質者に売ろうというのだ……愛にはこの男と鬼畜オヤジ達の関係が分からず、自分も商品として扱われるかもしれないという思いが過った……。
『前園亜季って名前はロリコンオヤジ……いやいや失礼、少女を嗜む御仁からしたら、別格の“ブランド品”ですからねえ?他の小娘の倍額をつけても、バンバン売れるでしょうね』
「う…売るって何よ…?あ、亜季は物なんかじゃないわ……」
『やっぱり高くしても売れるんだ?まあ、僕が選んだ娘なんだから高くても当然かな?ククク……』
愛は眼前の首謀者を無視し、亜季の事で盛り上がる鬼畜達を見遣った。
前髪を掴まれて殆ど顔は動かせないのだが、それでも愛は首を懸命に捻り、交わされる言葉に意識を向ける。
『とりあえず、今日訪問してくれたお客様に伝えときましょうか?〔前園亜季ちゃん、入荷しました〕って』
「いッ!?嫌あッ!!そんな…そんなの許さないッ!!私、許さないんだからぁ!!」
まだ幼い妹が、変態オヤジ相手に売られてしまう……こんなに残酷な仕打ちが、他にあるだろうか…?
愛は沸き上がる感情そのままに、亜季を“商品”にしないよう思いの丈を叫ぶ……それは明らかに動揺であった……。
『あ〜もしもし?今、何人くらい客が居る?……7〜8人くらいか……結構居るなあ?』
「やめ…やめてよぉ!!亜季を売り物なんかにしたら、お前らみんな殺してやるんだからあッ!!」
妹の危機に血を吐くように叫ぶ愛の姿は、晴らしようのない激憤と耐え難い哀しみに満ち満ちていた……燃え盛る情念は涙の海に揺らぎ、思い付くままに叫んだ言葉の刃は、目の前の鬼畜オヤジにすら効果をみせない……あの時の麻紗美となんら変わることなく、愛もまた己の無力さに打ちのめされていた……。
『そうだ……亜季ちゃんを売る前によぉ、愛ちゃんのオナニー話を聞かせてくんねえかな?』
「ッ!!!」
相変わらずニヤニヤと笑いっぱなしの首謀者の口から、またも屈辱的な台詞が吐き出された。
愛は噛み付かんばかりに歯を剥き出し、しかし、その形相には綻びしか見えなかった……。
『さっき『オナニーをしてるか教えたら、亜季を助けてやる』って言ったろ?……オジサンのオナニー話を聞いたんだから、今度は愛ちゃんの番……違うか?』
『お〜!そりゃあ面白そうだね。清純派を気取ったジュニアアイドルのオナニー話なんて、なかなか聞けないしねえ?』
「く…く…ッ!」
そうだ……愛は愛玩動物なのだ……飼い主に全てを曝け出し、身体のあちこちを調べられる事を“悦び”としなければならない……飼い主である首謀者がグイッと顔を近付けると、愛は睨みながらも怯えて顔を逸らす素振りを見せる……。