夏の思い出-1
第9話 〜〜「夏の思い出」〜〜
「オレの言うことが聞けないのか?……。」
見つめる視線の先で、あどけない顔が、今にも泣き出しそうに歪んでいく。
コトリは、悔しさを瞳に滲ませながら、唇を噛みしめた。
小さな手のひらを固く握りしめ、華奢な肩を小刻みに震わせる。
小高く盛り上がった幼い乳房が、ひっそりと息づくように上下していた。
けっして、裏切ったわけじゃない。
だが、お前にだって薄々わかっていたはず。
いずれは、こんな日が来ることを……。
シホは、後ろから俺たちを見つめるだけで、何も言わない。
覚悟を決めたように、膝を付いていた。
わずかに乳房と股間を隠しているだけで、他には何も身に着けていなかった。
「ママも……一緒なの?……」
コトリが、救いを求めるような眼差しを向ける。
「ああ、ママも一緒だ……。」
同じ顔をした母と娘。何から何まで、似ている二人。
「さあ、コトリ……。お兄ちゃんの言うとおりにしましょう。」
いつまでも動こうとしない娘を見かねて、シホが、コトリの肩を抱き寄せる。
「大丈夫。怖くないわよ……。」
本当は自分だって恐ろしいはずなのに、無理に笑顔を作って、コトリを立たせようとする。
「覚悟は出来たか?……。」
新たなステップに進むためには、地獄を見せることもやむを得なかった。
もはや、このふたりに憐憫の情など必要ない。
必要なのは、オレだけ。
そう……このふたりに必要なのは、オレだけだ……。