神様の陰謀-2
「ごめんなさい。私もお酒は弱くって……。」
だからって、なにも寝なくても……。
グラスに半分もなかったでしょ?
どんだけ弱いのよ……。
ぽうっ、と桜色に染まった頬が、やたらと艶めかしかった。
「コトリも、私に似たのかしら……」
シホさんが、独り言のようにつぶいた。
おいおい、「似てる」って、まさかそういうオチじゃないだろうな?。
あの子は子供、あんたは大人。
ふざけたこと言ってると、マジで襲うよ。
シホさんは、ほんとに眠たそう。
とろんとした瞳で、オレを見つめながら、欠伸ばかりを繰り返す。
時計を見たら、そろそろ今日が終わろうとする時間だった。
突然のアクシデントに、てんやわんや。
でも、話しかける切っ掛けは掴めた。
チャンスなんか、まだまだ幾らだってある。
取りあえず、好青年で通っているオレ。
好印象のうちに、退散するのが吉かと、席を立とうとしたときだった。
「あー!やっぱり、だめ!ちょっと、シャワー浴びてくる。」
え?
シホさんは、スタスタと自分の寝室へ。
そして、パジャマらしきものを、持って戻ってきた。
「ちょっと、待っててね。」
と言っただけで、そのままバスルームへと消えていく。
え?………………
エエーーーーっ!?
どうする?好青年のオレ!?。
玄関を上がると、すぐに右手に奥まった廊下があり、その廊下を挟むようにトイレと、ユニットバスが対面同士に設置されている。
いかにも日本的な発想らしく、狭い空間を少しでも有効活用しようと、廊下は、脱衣所の役目も果たしていた。
脱衣所の代わりをするわけだから、当然、人目から隠すために仕切りはあるのだが、これが、アコーディオンカーテン式のパーティションだけと、いかにも頼りない。
しかも、しっかりと密閉されるわけでもないから、耳を澄ませれば、衣擦れの音が、はっきりと聞こえたりするのである。
カサカサと音がする度に、妄想全開120%。
今にも波動砲ぶっ放しそうになる。
「待っててね」、と言われた手前、勝手に帰るのもなんとなく躊躇われて、シホさんがシャワーを浴びている間、ひたすら煩悩と戦い続ける羽目になった。
なかなか手強くて往生したが、取りあえず制限時間いっぱい戦って、テクニカルノックアウトで勝ち。
あー、疲れた……。
「待たせて、ごめんね。」
湯上がり姿のシホさんを拝んだ途端、今度は、こっちが完全にノックアウト。
しっとりと濡れた長い黒髪。
ほんのりと朱色に染まる柔肌。
なぜか泣いたように潤んでいた瞳。
この可愛らしさを、何にたとえて表現すればいいのか、わからない。
キュート、コケティッシュ、ビューティホー。
精一杯に頭を回転させても、この程度の形容しか思い浮かばない自分が情けない……。
まさしく、コトリちゃん完全大人バージョン。
きっと、コトリちゃんも大きくなったら、こんな素的な女性になるに違いない。
やっぱり、今のうちヤッちまお。
固く心に誓った、オレだった。
ゆったりとした大きめのパジャマは、胸のところが大きく開いていて、目のやり場がない。
シホさんは、濡れた髪をタオルでしきりに拭っているだけで、こちらの視線なんか、気にする素振りもなかった。
「ふぅっ、やっと目が覚めたわ。」
別に無理して覚まさんでも……。
内心は嬉しいくせに、素直になれない26才。
まったく先の読めない展開に、正直戸惑っていた。
弱いと言っていたはずなのに、シホさんは、髪を拭きながら、空いたグラスに、またワインを注いでいく。
8分目あたりまで注いだかと思ったら、一気に煽るように、それを飲み干していった。
唖然としているこちらを尻目に、ふっー、と大きなため息を吐いた後に、彼女は言った。
「タカ君も……入ってくれば?……」
えっ!?どこに?
思わず、ボケるところだったよ。
シホさんは、少し恥ずかしそうに俯いていた。
入ってもいいけど、次は、あんたの中に入るからね。
ひとりでツッ込んでたら、すぐにまたシホさんが口を開いた。
「それとも……すぐに、ベッドに行く?…………。」
神様……あんた、なんか企んでる?……。
早すぎる展開に、まったく付いていけないオレ。
いったい!、どうなってしまうのか!!?(ガチンコ風)