兄の帰省-3
夜空に浮かぶ満月がぼんやりと光を放つ。
暗闇と静寂に包まれ何処か哀愁漂う夜の街。
「いやー、今日は楽しかったなっ!」
「はいっ!」
そんな寂しさも私たちは払いのける。
「まさかあそこで豚まんが出るとは、テンション上がったぜっ!」
「えぇ、一条君のご家族さんと共に大勢で鍋を囲み賑わって。」
「あぁ、……そう、だな。」
「?」
急に元気を無くし、眉を顰め力なく地面に視線を落とす。
「帰り…たくないなぁー。」
「!?」
そうだった、彼のお母さんは早くに死んで、お父さんもロクに家に戻らず毎日酒を飲んで
親らしい事は何もせず、お兄さんも海外で仕事しているとかで…。
彼が心配な私は家に少しついていく事に。
「うわぁー。」
汚い、絵に描いたように汚い。衣服は出しっぱなし、食事はテーブルにそのまま、ビール缶がコロコロと床に散乱し…。
「ひっでぇー部屋だろ?でもいつもの事だから平気さっ!」
「……。」
彼の作り笑顔が痛い程やつれて見える。
「はぁーーーー。」
今にも死にそうな深いため息。