歪曲-1
14
重い足取りで、知らない道を歩いた。
うつむかせる顔に明るさはない。
とぼとぼと歩くミナの先を、赤いランドセルが揺れ動いている。
不意にランドセルが止まった。
「ミナ、遅いよ、早くおいでよ」
「う、うん……」
少しばかり機嫌の悪そうな顔が振り返るのは、これで3度目になる。
どうしても気が乗らなかった。
チカの家に行かなければならないこともそうだが、タケルとの約束を破ってしまったことが、ミナの表情を暗くさせている。
さっき、自宅に戻って自分のランドセルを置いてきたばかりだった。
タケルは、まだ帰ってなかった。
いつもミナが先に帰って、タケルはあとから帰ってくる。
きっと、ミナがいないことを知ったら、タケルは怒るのに違いない。
夕べ、お風呂のなかで約束した。
タケルは、すごく嬉しそうな顔をしていた。
いやらしいことをされるのは嫌だけれど、タケルの笑う顔を見るのは好きだった。
いつも、やさしそうな顔で笑う。
白くて、きれいに並んだ前歯をかすかに見せ、切れ長の瞳を山なりに緩ませる。
やさしい光を目に湛えながら、ミナを見つめて嬉しそうな顔になる。
タケルの笑顔に見つめられると、つい甘えたくなって、すぐにでも、しがみつきたくなってしまう。
小さな頃から、この笑顔がずっと好きだった。
夕べは、アソコにキスされた。
恥ずかしかったけれど、タケルの嬉しそうな顔を見たら、なんだかホッとした。
タケルが喜んでくれるなら、少しくらい恥ずかしいのを我慢してもいいと思った。
でも、怖いことをされるのは嫌だった。
いったい、タケルが何をしたがっているか、わからなかった。
だから、一番知っていそうなチカに訊いてみた。
「ね、ねえ、チカちゃん……ミナに、なにを見せてくれるの?」
チカは、見た方が早いといった。
けれど、なにを見せるつもりなのかは、まだ教えてもらってなかった。
「ねえ、ミナぁ……」
チカは、どんどん歩いている。
顔は、正面に向けたままだった。
ミナは、チカの後ろを歩いていた。
「あんたのお兄さんさぁ……タケルさんだっけ?とし、いくつ?」
「え?ああ……18……」
「ふーん、18歳かぁ、じゃあ、もう立派な大人だよね」
「うん……」
そうだ……タケルはもう、立派な大人だ。
たくましい身体をしていて、身長だって父よりも大きい。
勉強ばかりしていたわけじゃなくて、運動もちゃんとやっていたから、とても素敵な男性になった。
肩幅が広くて、胸板も厚い。
腕も太くて、その引き締まった腕に抱いてもらうと、すごく安心できた。
「じゃあ、おチンチンもおっきいんだ」
「えっ!?」
すぐに、タケルのおっきくなったおチンチンを思い出して、顔を赤らめた。
「おっきいんでしょ?」
チカが振り返った。
からかうような目つきだった。
「う、うん……」
確かに、タケルのおチンチンは大きい。
ミナが両手につかんでも、半分も隠れないほどの大きさがある。
伸びきった先は、おへそのあたりにまで届いて、手に取ると、ずしりとした重量感があった。
一緒にお風呂に入っていた頃は、あれが、あんなに大っきくなるなんて知らなかった。
初めて見たときは、怖くなって足が震えた。
すごく太くなって、ミナを怒っているような気がしてならなかった。
「あんた、気をつけたほうがいいよ。」
「え?なにを?」
「あんまりおっきいと、壊れちゃうからね。」
「こわれちゃう?なにが?」
チカが意地悪そうな目になった。
「あんたが」
こともなげにいわれて、心臓が震えた。
「どういうこと?……」
「簡単には入らないってこと。ヘタしたら死んじゃうよ」
「死……んじゃう?……」
穏やかじゃないことをいわれて、思わず足を止めていた。
「大丈夫だよ、上手にしてもらえれば壊れないから」
チカは笑っていた。
そんなことをいわれたって……。
「ほんと、迷惑な話だよね、まだおっぱいもないのにさ……」
チカは、どこか遠くを見るような目になっていた。
「チカちゃん?……」
「きっと、どんなことをしても欲しいんだろうね……」
思い出に浸るような眼差しだった。
「ねえ、見せてくれるって、いったい、なにを見せてくれるの?」
ミナは、不安になって、もう一度訊ねた。
「それは、うちに来たらわかるよ」
結局、はぐらかすだけで、チカは最後まで教えてくれなかった。