歪曲-20
「やっと出てきたね」
杉崎は、あきれたように笑うだけで、文句を言ったりするわけでもなかった。
「ずいぶんと可愛い声が聞こえてたけど、今度おじさんにも聞かせてね」
微笑むようにいわれたけれど、チカを虐めるこの人物が、ミナは好きになれなかった。
にらむように挑戦的な目を向けていたら
「そんな目をすると、すごく虐められることになるんだよ。おじさんの怖さがまだわかっていないみたいだね。今度、じっくりと教えてあげるからね」
と、杉崎は、にこやかな笑みを向けながらミナを脅したのだった。
「だぁめ、ミナはチカのものなんだから、パパにはあげないよ」
さっき手酷く折檻されたばかりだというのに、チカには杉崎を怖がる様子もなく、後ろからミナに抱きつきながら、杉崎に向かって舌を出したりしていた。
ほんとに変な親子だった。
チカの家から電話を借りて、母に連絡を取り付けた。
母の声を聞いたら、なぜか申し訳なくなって、受話器を握りながら泣いた。
母が迎えにくるまでの時間、チカがずっとそばにいてくれた。
「また、明日、学校でね……」
チカは、ミナを離したがらないように、何度もキスをした。
「お兄ちゃんに、まだ、あげちゃだめだよ。まだミナには無理なんだからね。絶対にあげちゃだめだからね」
しつこいほどにそういっていたのは、チカ自身がタケルに嫉妬していたからかもしれない。
ミナも、何度もチカにキスをした。
「わかってる……お兄ちゃんには、まだあげない」
あげるつもりはなかった。
あげるどころか、チカに行っていた杉崎の残虐な行為がまだ脳裏に灼きついていて、タケルのペニスは、ミナのなかで恐怖の対象となりつつあった。
あんなものがあるからチカもミナも苦しむことになる。
ミナは、チカに唇を重ねながら、自然と手を伸ばしていた。
チカの身体がとなりにある。
肩を寄せ合いながら、ふたりはリビングのソファに座っていた。
杉崎は、仕事の残りがあるとかで、早々に2階へと引き上げていた。
ミナは、欲しがるように唇を預けながら、チカの股間に手を入れていた。
なにもないそこが、今のミナには愛おしい。
チカも同じように触れてきた。
下着の上から触れていたのがもどかしくなって、どちらからともなく手を潜り込ませていた。
はあはあ、と荒げる息づかいが耳に心地よくて、いつまでもやめることはできなかった。
チカのそばから離れたくなくて、母がやって来るまでのあいだ、ミナは、ずっといけないことをしつづけた……。