歪曲-13
「ああ、こんにちは。チカのお友達なんだって?」
リビングの入口から現れたのは、予想もしていなかった、すがすがしい爽やかな笑顔だった。
「ああ、ほんとにきれいなお嬢さんだねぇ」
チカの父親は、ミナを見ると、にこやかに微笑んだ。
年の頃は、まだ若い。
少なくともミナの父親よりは、ずっと若いように見えた。
向ける笑顔に他意は感じられなかった。
「杉崎です。今日はよく来てくれたね」
杉崎と名乗った男は、ミナに向かって手を伸ばした。
「こ、こんにちは、お、お邪魔してます……」
あまりのさりげなさに、ミナも差し出された手を、つい握り返していた。
「いやいや、チカがお友達を連れてくるなんて初めてだから、驚いちゃったよ」
杉崎は、気さくそうに笑っていた。
人当たりの良さそうな笑顔。
身なりの良さそうなスリーピースのスーツ姿。
背は高くて、スタイルもいい。
顔も精悍そうで、覇気にあふれた表情をしている。
娘から見る父親像としては、理想的な男性ともいえるかもしれない。
「ほら、パパ、はやく着替えてきちゃって。シチュー冷めちゃうから」
「ああ、ごめん、ごめん」
後ろで、父親のカバンを胸に抱えているチカの表情にも、陰りはみられない。
なんなの、これ?……。
想像していた父親像とはまったく違う男が現れて、ミナは正直戸惑っていた。
「じゃあ、すぐに着替えてくるので、もうちょっと待っててくださいね」
杉崎は、ミナに向かって屈託ない笑みを浮かべると、すぐにリビングを出て2階へと向かっていった。
「パパ、かっこいいでしょ?」
残ったチカは、得意げな顔までしていた。
「う、うん……」
あんなにやさしそうなひとが、チカにあれほど酷いことをするなんて思えない。
「でもね……」
チカが寄り添うようにとなりに立った。
顔を寄せてきて、耳元に口を近づける。
そっと息を吹き込むように、耳のなかにささやいた。
「パパは、ほんとに変態のサイコだから、気をつけなよ……」
訊いて、ミナは心臓は凍りつかせた。
引きつった顔をチカに向けた。
チカの顔が正面にある。
チカは気の毒そうな目を向けている。
ミナは、震えそうになる唇を、なんとか開いた。
「さ、さいこって、なに?……」
チカは、あきれたように溜め息をつくと、自分もカバンを置くために2階へと上がっていった。