〈CLOSED〉-3
『愛ちゃんと亜季ちゃんてカフェオレ好きだよね?ここのカフェオレはオススメよ?』
飲み物の好みを知っている……愛と亜季は、やはり何時かこの女性と会っていると思い直し、そして運ばれてきたカフェオレを、促されるがままに口に含んだ。
『聞いたわよ?今度の写真集の評判……かなり売れてるらしいじゃない?』
「いえ…そんな……」
謙遜というか、いま力を入れて売っている写真集は、この女性の出版社のものではない。
ライバル社と手を組んで作り上げた作品の好調ぶりを話すのは、やはり気が引けるものだし、どうもリラックスしての会話というのは難しい雰囲気だ。
だが、少し固くなっている姉妹を見詰める瞳は優しく、飯坂は軽く身を乗り出すと、ニッコリと微笑んだ。
『……次の号の巻頭グラビアね、私は愛ちゃんと亜季ちゃんを推してるの。ううん、巻末グラビアも二人にお願いするつもりなの。それにインタビューも入れて、殆ど前園姉妹で作るつもりだわ』
「ホント!?じゃあ丸ごと亜季とお姉ちゃんの雑誌になるんだ?スゴいスゴい!」
目を丸くして身を乗り出し、椅子から尻を浮かせてポンポンと跳ねて亜季ははしゃいだ。
『愛ちゃんと亜季ちゃんはウチの“売り”なんだから。このままライバル会社の写真集に負けてられないじゃない?』
「うん!亜季頑張る!お姉ちゃんも頑張るよね?」
「う…ん……」
興奮気味な亜季とは対称的に、愛は戸惑ったような表情で僅かに俯いた。
赤ちゃんの時にオムツのCMでデビューした亜季の方が、芸能界入りは早かった。
その可愛らしさからオモチャのCMにも出演するようになり、成長と共に、当然のように子供服のモデルとしても選ばれた。
愛は小学校三年生になってから、亜季の姉という事で一緒に子供服のモデルとして参加し、そこから子供番組にも呼ばれるようになり、今に至っている。
物心ついた時からモデルとして活躍していた亜季は、人前に出ることに躊躇しなかった。
いや、自分が選ばれるのが当然と思っていたし、何より目立つことに喜びを見出だしていた。
そこが愛とは違っていた。
ある日突然、大人達の“都合”でカメラの前に立たせられ、訳も分からぬままにポーズを指示され、台詞を言わされる日々が始まったのだ。
確かに人気者になり、前園姉妹は美少女姉妹の代名詞にまでなった。
美少女専門誌の表紙を飾れば売り上げは上がり、トレカや写真集やDVDは、他のジュニアアイドルなど問題の外に置くほどである。
だが、それが愛は怖かった。