〈CLOSED〉-2
「私、コレに決めた」
「亜季はねえ、亜季は……コレにしよっ!」
愛は黄色いチュニックワンピースを、そして亜季は猫のキャラクターの描かれた水色のキャミソールを購入した。
それらは決して高価ではなかったが、年齢相応な品に違いなく、姉妹は満足した様子でビルから出た。
『あら、愛ちゃんに亜季ちゃんじゃない?』
外に出るや、姉妹は声を掛けられた。
それは何時も聞く男性の声ではなく、女性のものであった。
振り返り、その声の主を姉妹は見たが、やはり聞き間違いなどではなかった。
『やだあ、覚えてないの?寂しいなあ……』
その女性は20代半ばくらいであり、肩に掛かるくらいの長さに黒髪を揃え、灰色のスーツを着て微笑んでいる。
身長は高くもなく低くもなく、目鼻立ちも特徴のない、まさに平凡を絵にしたような容姿であった。
『あらら、思い出せないの?私よ、[ピュアピュアっ娘]の飯坂よ』
「……あ、どうも」
愛は差し出された名刺を受け取ると、思わず作り笑顔を浮かべた。
そこには、これまで何冊か愛と亜季の写真集を出版してくれた出版社の名前が書かれていたからだ。
その[ピュアピュアっ娘]とは、そこの出版社で製作しているジュニアアイドル専門誌の名前である。
何度となく巻頭グラビアとして前園姉妹を選んでくれた経緯もあり、その出版社のスタッフに対して失礼をしてしまったと、愛と亜季は恐縮してしまっていた。
『今日はオフなんだ?私、少し時間空いてるから、良かったらランチご馳走するわよ?』
「あ…は、はい」
「ありがとーございます!」
承諾してはみたものの、愛が記憶を探っても、この飯坂という女性は現れてはこなかった。
それは、亜季も同じであった。
二人の不信感を他所に、飯坂は大通りから細い路地へと入り、まるで隠れるように営んでいる小さな喫茶店のドアを開けた。
『ここの喫茶店、私の行きつけなのよ』
正面にはカウンターがあり、長い髪を後頭部に束ねた背の高いマスターが、にこやかに迎え入れてくれた。
カウンター席は白いジャージを着た男達で埋まっており、三人は空いている左側のボックス席に座った。