想い出のアルバム-10
(9)
その年も暮れようとする冬休みのある日、叔父さんの部屋に見慣れない段ボール箱が積まれてあった。箱は3つ。母に訊くと、数日前、叔父さんが車で運んできたのだという。私が友達と遊びに出掛けていた時である。
「叔父さん来たの?うちにいればよかった」
「すぐ帰ったわよ」
「あの荷物って、もしかして引っ越し?」
母はちょっと言葉を濁していたが、
「一緒に住むんだって。付き合ってる人と」
「え?」
「いずれ結婚するみたいだし、2人ともアパート借りてるからもったいないって。浮いた分貯金して結婚資金にするつもりじゃないかしら」
「ここに住むの?」
「ばかね。そんなわけないでしょ。勲さんのアパートに住むのよ」
「そうだよね……」
「部屋の内装替えたり家具を買ったり忙しいみたい」
アパートの部屋は鮮明に憶えている。叔父さんが私だけを見つめて写真を撮ってくれた部屋。私も叔父さんも昂奮して……。私は叔父さんの悦びに応えたのだ。そう思っている。
その部屋が、変わる。変わってしまう。それは、彼女のため、2人の生活のため……。そこに私はいない。
(わかっている……)
自分が入り込む余地などない。だが、胸に重いものが詰まっていた。嫉妬は感じなかった。喪失感というのでもない。
(不安定……)
あえて言葉に表すとしたらそんな感じがしていた。
未完成……それが気持ちを揺らしていた。
叔父さんと結ばれていない。これでは想い出が中途半端になる。結実することばかりが想い出ではないが、淡い思慕ならまだしも、私の場合は熱い愛撫を受けている。裸身をさらけ出し、秘口預けて女の悦びを開花させてくれた相手なのだ。簡単に割り切れはしない。
(結ばれて、想い出としたい)
強い感情が重く揺れる気持ちに絡み、ねじ伏せるように押し潰していった。
叔父さんの部屋に入った。
(段ボール箱……)
中を見てみたかった。
3つともずしりと重い。この中に、
(アルバムがあるはず)
彼女と暮らす部屋に置いておくはずはない。
2つめの箱に見覚えのある分厚いアルバムが書類の下にあった。アパートで撮った写真はまだ見ていない。
(どんな風に写ってるんだろう)
あの時お尻を出しかけて止められたことを思い出した。少しどきどきしてきた。
叔父さんの『想い出のアルバム』
開いて、ときめきが消えた。写真がない。1枚もない。3つめの箱も調べてみたが他にアルバムはない。
(どうしたのか……)
私はしばらく写真の貼られていないページを往き来していた。そして行き着いたのは、
(棄てられた……)
そう考えるしかなかった。
(叔父さん……)
内から昂奮が高まってくるのを感じていた。ふつふつと満ちてくるものは怒りではなかった。葛藤はあった。しかし、私にははっきりと自分の意思が自覚できたのである。
(決別……)
縋る想いはまったくない。ただ『形』を残したかったのである。
(叔父さんにぶつける)
壊すつもりはなかった。区切りとしたい。私には想い出の『しるし』が必要だった。