今夜、七星で Yuusuke’s Time完結-5
「……そうね。言いたかったことがあって来たの。この前はありがとうって」
椿さんが下を向いたまま低く呟いた。
「私、情けないわね。結局誰にも愛されなかったんだもの。いい気味だと思うでしょう?」
その声は静かに、怒りに震えていた。
「あんな道端で現実見せられて、みっともなく泣いている私を心の中で笑っていたでしょう?」
違う!そう言いたいのに、椿さんは怒りを露にするように言葉を止めない。
まるでさっきの俺みたいに、興奮して捲し立てている。
「彼は既婚者で、愛する家族も子どももいて、何も知らないで独りで傷ついて泣いていたなんて、哀れで惨めに見えたでしょう?だから慰めてくれたんでしょう?同情して抱き締めて……でもあれは、あれは……今のゆーすけ君の言葉を聞いてわかったわ。」
顔を上げて真っ直ぐ睨んできた。涙を浮かべつつ、目は怒りで血走っていた。
「ゆーすけ君だって、私を代用品にしてたからよ!」
俺が、椿さんを?
考える暇を与えず、更に椿さんは捲し立てる。
「愛されなかったのは、ゆーすけ君、あなたも同じだからよ。だから、玩具を無くした子どもみたいにこうやって怒って責め立てるんだわ。……樹里の、……樹里の穴を埋めるように私を身代わりにして、」
言葉を切って涙を拭っている。俺はただ見ているだけだ。
言われたことがぐさり、ぐさりと突き刺さって、どれから反論していいか解らないんだ。
「愛そうとしないで、愛されたいばっかりで。今夜だって私がいなければあの人とセックスして、自分だけ満たされたかったんでしょう?」
「違う!」
とにかく遮りたかった。これ以上腹ん中を突き刺されたくない。
「違わない!最初に逢った時からそうじゃない!女なら誰にでも色目使って、誘ってたじゃな」
「俺は待ってたんだよ!」
遮って出た言葉は、隠しておいた本心だった。カッコ悪い、未練がましい俺の本心だ。
「あんたが来るの、ずっと待ってたんだよ!ふざけんなよ!滅茶苦茶勝手に勘違いして……俺のことなんにも知らねーくせに勝手に踏み込んでくるんじゃねーよ!」
しまった。言った途端、言ってはいけない椿さんを傷つける言葉を言ってしまった。
思った通り大粒の涙を浮かべて、でも怒りの表情を維持した椿さんの姿がそこにある。
「……今のは言い過」
「そうよ、何も知らないもの!私はゆーすけ君の恋人でも友達でもない、ただのセックス出来るだけの女なんだから!」
謝ることも許されず、椿さんは自虐的な言葉で強がってみせた。
言い切った椿さん。言い返せない俺。
二人の溝のように沈黙が滑っていく。
俺、なんか言わなきゃ。あれは言い過ぎたとか、傷つけるつもりじゃなかった、とか。
考えれば考えるだけ、焦って言葉が見つからない。ひんやりとした壁の冷気が、拳から身体中に伝わる。