変心-1
5
半透明のドアの向こうに人影がみえる。
「着替え、置いていくわよ!」
母の夏美が着替えを持ってきたらしい。
「ああ!ありがとう!」
いつもなら、すぐに彼女の姿は消える。
「そろそろお風呂から出なさい。いい加減いつまで入ってるの!?。」
気がつかなかったが、ずいぶんと時間が経っていたようだ。
とがめるような口調だった。
すぐに戻るはずが、今夜の彼女はドアの方へと向かってきた。
「いまミナの髪を洗っているところ。もうすぐ出るよ!」
母の体が、ドアのすぐ向こう側にあった。
半透明のガラス越しに母の姿がくっきりと浮かび上がる。
タケルはじっと見つめていた。
母の手がドアノブに伸びた。
ミナは恐ろしさに声を出すこともできないらしい。
息を潜めている。
じっと動かなかった。
おかしくなって、タケルはそっとミナの頭をなでた。
不意に母が背中を向けた。
すぐに彼女の体はドアの向こうから消えていった。
「いっちゃったよ・・・。」
入り口に背を向けているミナには状況がわからない。
教えてあげたが、よほど怖かったとみえて返事をすることもできなかった。
きっと、ミナだけなら覗いていた。
母はタケルに遠慮したのだ。
タケルの体はすでに大人になっている。
だから見るのを躊躇った。
おそらくそうだ。
タケルを信頼もしている。
不作法に覗いて妙な空気になるのを嫌ったのだろう。
「つづけな・・・。」
息を潜めていたミナの頭をなでた。
何度もなでていると、観念したように小さな頭が再び動き出す。
ミナの髪を洗っていたのは嘘じゃない。
髪をなでるタケルの手のひらは泡だらけになっていた。
「下から上まで丁寧に・・・そう、上手だ・・。」
股間にミナの頭があった。
「もっと強く押しつけて・・・。」
ミナはドアに向けて小さなお尻を突き出している。
「もっと濡らすようにやるんだ・・・。」
四つん這いになっていた。
丸いお尻を突き出し、曲げたひじで自分の胸を支えながら、タケルの股の間で小さな頭を上下させている。
「先の方も舐めて・・・。」
短い舌をいっぱいに伸ばしていた。
「上手だぞ、ミナ・・・。」
タケルは満足そうに上から眺めていた。
舌を当てているだけだから、それほどの気持ちよさはない。
快感は求めていなかった。
従っていることが大事だった。
「いいぞ・・・。」
褒めているのを教えるように、泡だらけになっているミナの頭をなでてやる。
そのまま濡れた髪を指に絡めてすくい取り、さらに泡立てるように揉みほぐした。
ミナの髪は長い。
背中まで伸びるくせ毛は、量も多くて洗い終わるまでには、まだまだ時間が掛かりそうだった。
ミナは、もう泣いていなかった。
さっきまで、あんなに泣いて嫌がっていたくせに素直なものだった。
頭をなでてやると、もっと褒めてもらいたがるように熱心に舌を動かした。
チロチロと舌を伸ばして舐めているだけだが、それだけで満足できた。
焦る必要は、どこにもなかった。
ミナの気持ちはタケルにある。
キスをしたあとに、こんなことをするお兄ちゃんは嫌いかと訊ねた。
ミナは涙を流しながら、わずかに首を横に振った。
好きなのかと訊ねると、今度ははっきりと肯いた。
「お兄ちゃんもミナが大好きだぞ。だから、エッチなことがしたいんだ。」
嘘じゃないと教えるように、もう一度キスをした。
「痛いこと・・・しない?・・・。」
すがるような目が向けられていた。
「するよ。」
こともなげに答えた。
「痛いこと、いやだ・・・。」
哀れなほどに顔を歪ませていた。
「痛いこともいっぱいするし、ミナが嫌がることもする。でも、お兄ちゃんはミナが大好きだよ。」
「痛いことをするのに?・・・。」
「そう。ミナが大好きだから痛いことをするんだ。」
「そんなの、わかんない・・。」
わかるはずがない。
「今はわからなくていいよ。でも、お兄ちゃんはミナが世界中で一番好きで、そしてミナがこの世で一番大事な妹だよ。」
大事な妹だといわれて、ミナは言葉を詰まらせた。
困惑したような瞳を向けていた。
その瞳を見つめながら、もう一度唇を重ねた。
「痛いことしないで・・・。」
濡れた瞳で一生懸命に頼んでいた。
「ミナ次第だよ。ミナがちゃんとお兄ちゃんのいうことをきくなら、痛いことはしないであげる。」
「ほんとに?・・・。」
「ああ。その代わり、いうことをきかないときはいっぱい虐めるからな。」
ミナは、きっとタケルの言いなりになる。
確信があった。