第十章-2
「じゃ、その上にコートを着て外灘へ行こう」
コートが服装指定されていた意味がようやくわかった。私はコートを羽織って、泉美と二人で外灘に出た。思ったとおりまだ人がたくさんいた。
「夜だから、よほど近づかないかぎりわからないわよ」
「そ、そうですね」
私は歯をがちがちと震わせながら答えた。
「それじゃ、コートを脱いでそのあたりを散歩してきな。私はここで見ていてあげるから。言わなくてもわかってるだろうけど、手で胸や股間を隠したりなんかしちゃいけないよ。平然と堂々と歩くんだ」
「はい、わかりました」
私はコートを脱いで泉美に渡し、全裸同然のシースルーの上下で、一人で外灘を散歩し始めた。私とすれ違う人たちは、振り返ってひそひそと何か話したり、中にはもう一度私の前に戻って来てじっくり見つめる人さえいた。
私は恥ずかしかったし、怖かったし、また寒かった。しかし恥ずかしいことを強制されるという性的な興奮に体が疼き始めてもいた。恥ずかしければ恥ずかしいほど喜悦して、マンコがじんわりと濡れてくるのであった。
「ちょっと、君」
突然私は後ろから肩を叩かれて呼び止められた。振り向くと、そこには二人の警察官。
(やばい!)
泉美があわててそこへ駆けつけて来た。
「この子をこんな格好で歩かせたのは私です。この子には何の責任もありません。すべて私が悪いんです」
しかし泉美の抗弁は警察官には通用しなかった。
「君もいっしょに来なさい」
というわけで、私は公然猥褻罪、泉美は公然猥褻教唆の罪で、二人ともその場で補導された。
警察署では二人別々の部屋で事情聴取された。私は少年係の女性警察官に、四月のコスプレパーティー以来のことを包み隠さずすべて話した。泉美がどんなふうに話したのかはわからない。
その夜のうちに、それぞれ親が身柄を引き取りに来て、私たちは釈放された。しかしこの一件は、私を被害者、泉美を加害者とするいじめ事案として処理され、泉美には保護観察がついてしまった。これはいじめではない、私も喜んでいたのだと、私は一生懸命に説明したのだが、頭の固い警察には数学のお勉強は理解できなかったようだ。
翌十六日、私は学校へ行ったが、泉美は休んでいた。警察から学校にも連絡があっただろうから、担任の鷺坂先生は昨夜の一件を知っていただろう。しかしそれに関しては何も言わなかった。また生徒たちは誰も何も知らないようだった。
翌十七日には泉美も学校に来た。そして私をいつもの体育館の裏に呼び出した。
「彩香、一昨日の夜は本当にすまなかった。このとおりだ」
泉美は私に深々と頭を下げる。
「そんなあ。お願いですからやめてください、泉美様。飼い主が奴隷に頭を下げるなんておかしいですよ」
「奴隷に露出や野外羞恥プレイをさせる時は、何かあったら奴隷を守ってやる義務が飼い主にはあるんだ。でも私はその義務が果たせなかった。お前まで補導されるハメにしてしまった。もうお前を奴隷に持つ資格はないよ。道具も全部取り上げられたことだし」
「それなら私の方こそ申し訳なく思います。私のせいで泉美様に保護観察がついてしまって」
「それは気にしなくていいわ。お前からは一切の意思を剥奪していたのだから、お前には何の責任もない。悪いけど新しい飼い主を探してくれ」
「そんなの嫌です。私には泉美様しかいません。いつか泉美様のことを数学の女神様とお呼びしましたよね。私の女神様は泉美様一人です。これからもずっと」
「黙れ! これは私がお前に下す最後の命令だ。新しい飼い主を探せ。じゃあね」
泉美は私の肩をポンと叩いて去って行った。
そして十八日の金曜日も泉美は学校を休んだ。