ざくろの昼下がり-1
夏の日差しは和らいだものの太陽が傾いても空はまだ高い所にあった。
ほんの数年前まではこうやって日課のように上って遊んだ裏山も今ではすっかり興ざめして、あの頃のワクワク感が欠けてしまっていた。
「トシキってば・・・何やってんだよ?」
和孝は藪には入らず、林道に立ち尽くしたまま呼んだ。
あの頃はこの和孝と二人、陽が暮れて見えなくなるまでこの山で遊び呆けていた。
こいつとは小学生だったあの頃からこうして遊んでいるけど、この山に来たのはたぶん今年初めての事なのかも知れない。
「柘榴だよ、ザークーロっ!」
「なんだよ、そんなの・・・腹の足しにもなんねぇじゃないかよ。」
子供の頃はよく二人で採って道々食い散らかしたものだった。
もぎ取った柘榴をひとつ投げて寄こしたけど、和孝はあまり興味なさげにそう答えた。
僕もあまり旨いものとは思ってはいない。
子供の頃は常にワクワクがこの裏山にひしめいていたはずだった。
17歳にもなるとそれらは色褪せて、夏の終わりの夕暮れのようにいつしか消えてしまう。
「おーい!それより収穫あったぜ!」
「なんだコレ!?こないだの雨でぐしょぐしょでパリパリじゃないか。」
「ぐしょぐしょがいいんだよ!」
和孝は愉快そうに笑う。
それは心底からそう感じるものとは違って結局、何もなかったこの裏山に「せめても・・・」と付け足したような笑顔だった。
10年も一緒に遊んでいたら、そんな事まで分かってしまう。
もしかしたら、裏山に行ってみようと言い出した僕にいくぶん気遣っての笑顔なのかも知れない。
裏山ではかつて10万円で売れるという幻のクワガタを探しに来たり、こうやって木の実を取ったり。
あるいは小川で獲った名も知れぬ小魚をたき火を起こして焼いて食べたりした事もあった。
何を根拠にそう思ったのか毒蛇を捕獲して売ろうなんて、とんでもない事して遊んだ事もあった。
そんなワクワクも中学生になると様変わりして、この「収穫」がメインになって行った。
それは誰が何のためにそこに投棄するものか林道の端に落ちているエロ雑誌の収穫だった。
「なんだこりゃ、エロマンガじゃないか。」
「こっちの方が際どくて萌えるぜ。」
「写真のがいいよ。コノテの雑誌は最初の2ページぐらいしか写真が載ってない。」
「そういうなってば、どうせタダなんだから山の神の恵みだぜ。」
この先をずっと登ったところに納屋のような山小屋があって僕らはそこに収穫物を保管していた。
言わば秘密基地だった。
その小屋の事はよく分からないが一時期林業の伐採が行われたようで何かの印を付けられた杉の木は今でも点在した。
おそらくその関係で設けられた山小屋だったのだろうがそれも数十年前の話らしくて、今ではそれも荒んでいる。
雨に濡れて乾き、ページもくっついて捲れないエロ本を保管しにわざわざそこまで登る気は毛頭起きなかった。