偽りの欲情-5
「あんっ・・ダメよぉ・・・」
乳首を摘まむその切なさと陰部に与えられる暖かさに体を捩りながら、そこから逃れようとする手は反対にその腕に絡みついてしまう。
色彩を失いかけて色褪せたはずの欲情がまた新たな色に塗潰されていく。
私の頭の中にはあのプールの底の蒼さが蘇っていた。
下着は引き下ろされて拡げられた亀裂に舌先が滑り込んできた。
だんだんと卑猥なポーズで責め立てられる事を体が求めていく。
昼になく夜になく、ここには時間の観念が存在しない。
私と克也はとり残された不安を共有して、確かめ合うためにセックスを繰り返す。
「やぁだ、そこ・・・お尻のアナ・・・」
「僕は何があっても君を離しはしない・・・」
恥部に舌をあてられても羞恥心すら感じなくなりつつある。
カーペットの起毛を手のひらに掻き集めながら、アナルに与えられる刺激を深く探ってみた。
区役所に出向いて克也の移転届を申請した。
私がよほど挙動不審だったのだろう。係りの女性が本人の身分証を出してくれという。
そんな事もあろうかと克也の免許証を持ち出してきた。
「この新しい住所はどなたのお住まいですか?」
「私のです。」
「奥様じゃ・・・ないんですよね?」
「違いますけど、交通事故に遭って私が面倒みなきゃならないんです。」
「はあ・・・えっと・・・」
本人は来られないのかとか、なぜ介護に住民票を移す必要があるのかとか・・・
役所の三十女は余計なお世話を重ねた。
仕方がないから本人を連れてくるといい、午後になって区役所とは別の行政センターで移転届を出す。
「ねえ、なんで僕の住所が別の所にあったの?」
「あ・・・うん、あのね。あなた以前は実家から通勤してて、そのままだったのよ。」
「実家!?・・・両親が?・・・えぇっと・・・」
「あん、お医者さんが言ってたじゃない。無理に思い出そうとしちゃダメよ。」
あぁ頭が爆発する・・・私は何のために、どこまで嘘をつき続けなきゃならないのか?
こんな事なら、単にマンションの前で事故が起きて通報したと彼を家に帰してしまえばよかった。
あの時はまさか記憶を失ってるなんて、夢にも思わなかったのだ。
とはいえ、預貯金などはもうほとんど食い潰してしまっていて、今は当座の生活のためにもお金が必要となってしまった。
彼とまで気まずい空気になってしまったけど、これでマンションに帰れば移転届を出しに行って来た事すら忘れていてくれる事を祈る。