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ヒューマン・ロール・プレイ
【調教 官能小説】

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〜 音楽その1 〜-3

 ……。


 【B2番】先輩が鍵盤ハーモニカに続いて取り出した楽器は、懐かしいプラスチック製の縦笛『リコーダー』です。 ただリコーダーだけじゃなくて、棒状のエボナイト棒に2つの金属環とバンドがついた器具も、手に取っています。 棒状の器具は、幼年学校時代であれば用途に見当がつかなかったでしょうけれど、今ではすぐに理解できます。 『馬』に身を窶(やつ)す場面で登場した『ハミ』――棒を咥えて口を広げた状態を固定する器具――に間違いありません。

「リコーダーの練習ですけど〜、これを咥えて吹くのが〜学園のスタイルなんです〜」

 のんびりした【B2番】先輩と、

「そろそろ分かってきたんじゃないの。 学園のスタイルってのはいくつかパターンがあって、その1つが、やたら『体の中』を見せようとするわけ。 さっきは『鼻』で、今回は『口』ね。 身体の内面を晒けだすことでさ、外面を取り繕わない気構えを養えるんだってさ。 理屈はともかく学園の方針の1つだから、頭の片隅に置いとくこと」

 詰まらなそうに肩を竦める【B29番】先輩。

「器具を装着しちゃうと〜もう喋れなくなっちゃうんです〜。 あとは『にっく』に任せますね〜」

「了解」

「器具はいくつかあるんですけど〜断然『長くて細い』タイプがおすすめです〜。 間違っても『太くて短い』のは駄目ですよ〜。 顎が外れちゃいますからね〜……あむ」

 【B2番】先輩は大きく口を開けると、かぷり、エボナイト棒を咥えました。 グイグイと奥歯が当たるくらいまで棒を噛みます。 棒の両側についた環から伸びたバンドを後頭部に回して結び、螺子を絞って顔と器具とが固定されました。

「つうに付け足すと、ハミには丸型や角型、星型とかサッカーボール形、いろんな形がある。 丸型が無難でいいと思う」

 サッカーボール型って……そんなん誰が選ぶんでしょうか……?  それはそれとして、

「ん〜……んふ〜、んふ〜」

 がっちり歯を噛みしめたまま固定され、舌は口の奥で出口を失い、くぐもった音を喉からならす【B2番】先輩。 リコーダーの穴に指を添え、口許に持ってゆきます。

「んん〜。 んぷ……んっ」

 が、当然リコーダーを咥えることが出来ません。 口が開けっぱなしにされているんですから当たり前です。 それでも先輩は口をモゴモゴさせ、上唇と下唇を震わせていました。 ということは、あくまで『ハミ』を着けたままでリコーダーを咥えよう、というんでしょうか。

「この体勢から吹くんだから、勿論空気が漏れないようにピッチリ咥えなくちゃいけない。 口と棒の間に隙間が残っていたら音が汚くなるし、息が抜けるし、どうしようもない。 かといってさ、棒を噛まされてそのままだと閉じられないし、アンブシュアを崩さないだけで精一杯。 アンブシュアって、わかるよね? 吹奏楽の基本で、演奏する時の口の形のこと」

 【B29番】先輩が喋っているうちに、ググッ、【B2番】先輩が更に深くハミを咥えました。 同時に歯茎、唇が連動してエボナイト棒を包みこみます。 口許がキュッとハミを締めつけたのは、おそらく頬の表情筋が本来の閾値を超えて収縮したからでしょう。 唇を閉じようとして鼻筋が下に伸びきっているも、だらしなく伸ばすんじゃありません。 みっともない点は否めませんが、あくまでも意志を込めて筋肉が躍動した結果、もたらされた表情です。

 やがて、本当に棒と口が密着して、ちょっとの隙間もなくなりました。 最初は無理だと思っていたのに、目の前であっさり完成させられてしまうと何も言えません。 大きな棒を頬張った外観は南国のハコフグを彷彿します。 或は頬袋を一杯にした齧歯類でしょうか。

「んぶ……ぁむ」

 つい。 ゆっくりとリコーダーの先端を唇で咥えます。 そのまま指先が動きました。 普通は息を吹き込む際に表情が変わるため、音がでるタイミングが傍目に分かります。 しかし最初から限界まで頬が膨れていたため、先輩が曲を吹いた時は、やけに唐突な感じがしました。

 ちゃーららるららーちゃんちゃん♪

 曲目は、鍵盤ハーモニカと同じ、ヨハン・バッハのメヌエット。 鍵盤ハーモニカよりもいっそう軽やかで、暖かい春のような音色が響きます。 顔全体を薄っすら赤らめて奏でる【B2番】先輩に聴きいっていると、

「タンギングできてるって、聞いててわかる?」

 【B29番】先輩の視線が、私達をジッと探っていました。 私は22番さんと顔を見合わせます。 一応幼年学校で音楽もリコーダーも一通り練習しましたから『タンギング』の大切さは知っていますし、聞けば『タンギング』が出来ているかどうかは分かります。 そして、勿論【B2番】先輩はばっちり『タンギング』が出来ています。 音ごとに空気の隙間で区切られていて、耳に心地いいはっきりした旋律――……。

 ここまで考えて、ハッとなりました。 息を吹きながら舌でリコーダーの口を押さえ、音に切れ目をいれるのが『タンギング』です。 私が疑問に思ったことを見透かすように、

「そういうこと。 つうはね、棒の下からベロをムリに伸ばしてタンギングしてる。 普通に棒を咥えたんじゃ舌が動かせないから、ああまで奥に咥えてるんだ。 ただ吹くだけじゃなくて、演奏することまで考えてるんだよ」

 【B29番】先輩が説明してくれました。 そういわれると、頭の中では分かるんですが、実際に可能なのか信じられません。 いや、現に目の前で実演してもらってはいるんです。 それでも実感が湧かず、私も22番さんも、茫然となって【B2番】先輩のメヌエットを聞いていました。 



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