【第34話】新たなるきっかけ-1
お盆を過ぎた夏だったが、やはり相変わらず雨が降らず
うだるような日が続いていた。
蝉は割れんばかりに合唱し、日陰に入っても
汗が止まらない、まさに猛暑であった。
福原正人は秋の大会に向け午後のグランドで走っていた。
短距離選手だった福原はようやくダウンランニングを終え
上がる寸前だった。
『それにしても熱いな〜。』屈伸運動もいささか今日は手抜き気味だった。
どさっ、、。何かが倒れる大きな音がした。
高跳びのマット近くで男の
日に焼けた長い脚だけが端から見えた。
『おいっ大丈夫か?松野か〜?』
『福原さん、松野君が大変です、、。頭から倒れちゃいました、、。』
後輩が泣きそうな声で大声を出していた。
整理体操をしていた2人の部員が駆け寄ってきた。
『あんまり動かすとまずいかもしれない、、。だけど日向じゃまずいな、、。』
幸いにも倒れた場所から近いところに陸上部の部室があったため
松野はすぐに部室に運び込まれた。
『そういえば、保健室にトール先生いるだろ、、ちょっと〜。
藤井、呼んできてくんないか、、。』
『それと冷たいスポドリある?あと氷かな?タオルはあるからいい、、。』
『あと顧問室にまだK居たかな〜?会合あるって言って早退してたけど。』
『直美、わり〜ちょっと見てきてくんない、、。』
『はい、、。行ってきます。』
段取り良く部員たちは福原の指示で散らばっていった。
プールの観覧席の下にある部室だったためか、比較的涼しい日陰になっていた部室だった。
用具入れを兼ねた部室だったので少し広めの間取りだった。
松野は完全に熱中症の様であった、、。
『ばっかだな〜水飲んでたのかよ〜。』
『朝からおなかの調子悪いって言ってたから飲んでないんじゃないのかな、、。』
松野はぐったり福原の声にも返事がなかった、、。
5分くらいたっただろうか高城舞が血相をかえて陸上部の部室にやってきた。
『どんな感じ?松野君』すぐさま上半身を緩め脈を測った。
『頭から倒れたって聞いたけど、外傷は、、? 松野君話せる!!』
『、、、、ヴぁい、、ヴァい、、びょうぶ、、、で、す。』
『頭に傷はない様ね、、。多分、熱中症ね、、。』
『これだけ身体熱いんじゃ、、病院で冷たい点滴打ったほうがいいわね、、。』
そうこう話をしていると届いた氷で頭を冷やしながら舞は言った。
舞は携帯を取り出すと顧問のKに電話をし始める。
『K先生ですか、、あ、はい、まだいらっしゃいました?、、。松野君ですけど
確認できました。とりあえず意識はあります。 あ、、はい。
、、、そうですか、、おひとりで大丈夫ですか?、、はいわかりました。』
舞は電話を切る。
『なんかねK先生が病院に連れて行ってくれるって。
副顧問だっけ?P先生も近くに居るからって
生徒は今日午後も暑いから、みんな早めに帰宅させてくれって、、。』
松野が病院に運ばれた後、舞に促され、後輩達はそそくさと帰らされた。
夏の大会が終わった陸上部は3年生が引退し一番上は福原だった。
久しぶりに用具の片づけをする羽目になった。
スタブロを両手に持って福原は舞に声をかけた。
『先生、おれ用具の片付けあるけど終わったらすぐ帰りますから、後いいですよ、、。』
さすがの気遣いの言葉の福原だった。
『倒れた部員が出たのに最後まで見届けないとまずいでしょ、、福原君、手伝うよ、、。』
舞は白衣をハンガーにかけ福原の尻をたたいた。
『おっじゃっお言葉に甘えます。スミマセン、、。』
ふたりで残った高跳びのマットを部室に運び込んだ。
重い用具は福原にまかせ
舞は軽いバーをえらんだ。
『福原君、バーはここでいいの?上の方??』
『違います。あの〜そっちです。上げにくいわね、、、』
『あれ?? 、キャっ』
ドサっ
棚に引っかかり一番上に置いてあった小さな箱が
舞の足元に落ちてきた。
『ごめ〜ん福原君、落っことしたみたい。これ一番上の棚で良かった〜?』
福原の声は聞こえなかった。舞に指示を出したあと
グランドの整備をしているようであった。
シューズを買った時の箱にどうやら参考書を入れているようだった。
『何で??』参考書が入っているような場所じゃない事に疑問を持った舞は
思わず参考書を取り出してみたくなった。
巻末に福原の文字があったが消しゴムで消されていた。
ただ消された字のうっすらしたくぼみから福原の物であったことは推測で来た。
『えっ何、、何なの、、。これ、、。』参考書の中には
薄い厚みのアルバムらしきものが入っていた。
目にした舞に戦慄が走った。衝撃的な写真だった。
開いてみるとそれは紺のレオタードでボールを手にしている寧々の姿だった。
1枚は遠くに顔がわからないくらいのロングの写真
2枚目はボールを持った胸から下の写真、
そして3枚目は大きく開脚しボールと共に
これ以上なく盛り上がった恥丘の写真だった。
肉厚な美肉は薄布に辛うじて隠されていたが
そのサイズが小さく、布は食い込み
恥辱の縦の谷は否応なく強調されていた。
少女の秘部の形はたやすく想像できた。
顔こそ写っていなかったが、見覚えのある
紺のレオタードは、寧々を撮った写真に間違いなかった。
つい何日か前、舞がいやというほど舌をはわせた股間の写真だった。
『あいつ、、。』
寧々の彼氏とは福原正吾だった。
付き合っているとはいえ
余りにガードが堅い寧々は手をつなぐことくらいしか許していなかった。
クラスメートには付き合っていると自慢できたが
実際は蛇の生殺し、遠くから憧れている方がよっぽどましだった。
ここにもまた倒錯の若人が居た。
数学Vの参考書の出版社と名前を控え、印として10Pの端に星印の目印を付け
舞は元あった場所に何事もなかったように戻した。
舞は福原が寧々と付き合っているのは以前から知っていたし
ドライブした日も嬉しそうに福原のことは話していた。
『なんとまあ、罪作りな、付き合っているというのに、、。彼氏に盗撮されるとは、、。』
舞は複雑な気持ちになっていた、。
16:00を過ぎようとしていた。福原のグランド整備も終わったようであった。
トンボをかたずける短距離選手の福原は凛々しかった。
『ありがとうございました。助かりました。』教師から評判のいい
爽やかな挨拶だった。
『福原君〜。申し訳ないんだけど、今日の件、
明後日までに保健所と教育委員会に報告書出さないとだめなの』
『先生同窓会の準備があって、あした学校これないんだ、、。』
『夕方、先生の家の前で少し時間作ってくれないかな、、。』
『先生の家、学校から近くでしたよね、、いいですよ。明日は予定ないし、、。』
たとえ予定があったとしても緊急対応してくれた舞には少し義理を感じていた。
憧れのトール先生に呼ばれるのも悪くはなかった。
若人は舞が目にした福原の禁断の宝物の件など知る由もなかった。