俺だけをみて!-4
「そっかぁーー。」
湯煙が容赦なく舞い上がり、冬の風がどこか心地よく感じるホテルの露天風呂。
「はぁー、それにしても人居ないなぁー、僕等だけの貸し切りだぁーい!」
それを良いことにげんきんに手足を伸ばす連。
「効くんじゃない?背中の傷にー。」
「あぁ、あれ以来結構日が経ったからな、最近は全然痛くない。」
「大変だったよね、「同級生刺殺事件」は。」
「はいはい刺殺未遂なっ、ワザとだべこの野郎。」
「あっははははぁー♪」
「ったく。」
今でこそこうしてヘラヘラしてるけど、あの時は必死に掛け付けてくれたんだろうな。
後で巴から聞いたのだが、その日は部活のちょっとした模擬試合があったそうだ。模擬と
言っても大事な試合なのは変わりないようで、俺もちょいちょいその試合の重要性を何度
か見て聞いた…、「合宿が終わっても世界レベルと比べるとまだまだ何だ」「一分一秒でも無駄には出来ないよ」と、夜遅くまで練習に更け、休日は当然のように丸一日練習漬け
で、模擬でも本番さながら絶対勝利を目指していた。
にも関わらずそんな大事な試合を迷う事なく放り投げ急いで病院に掛け付けた…。そして
俺を刺したアイツに対して物凄い殺意を覚えたという、能天気が売りの連にしては想像も
出来ないくらいに。
俺が生死の境を彷徨っている間、柊さんは勿論元カノで今も大事な友人の巴もどんな思いで手術室の近くで待っていたか、巴は気が強いから柊さんを支えてくれて…、でも内心
彼女だって…。
そして連も、アイツとは小学校からの付き合い…もしそんな俺が死んだら…。
あぁー、思い返せば思い返す程風馬の奴が許せなくなる…。そんな風に思えば柊さんを
傷つけるだけだ…。
「連…。」
「ハイよ〜♪」
「すまないな、心配かけて…。」
「おう?」
俺は、例の刺殺未遂事件を軽く話し。
「大変、だったよな…何時間も待ったんだって?そんなの耐えられないだろう。」
「……。」
「幾ら不意の出来事だからって、…もっとアイツの殺意に気づいていれば。」
「ぜーんぜんっ!」
「え。」
「苦しくも大変でもないよー。」
「いや、でも。」
「目が覚めて生死の境がどんなところか教えて欲しかったのに、うーん残念!」
「お、お前なぁー。」
何か、一気に力が抜けてきた。
「…まっ、信じてはいたさー、君がそんな所で死ぬなんて思ってもないし。」
「連。」
ちなみに同じ事を柊さんに言ったら「そんなっ!謝んないで下さいっ!確かにとっても
辛かったし、巴ちゃんがいなかったら貴方と同じ所に行く逝く所でした!」って。
で…巴の奴は「はっ!心配何かだぁーれがするかよっ!ったくいつもいつも若葉に心配
掛けていい加減にしなさいよっ!」と。
同じ女子でどうしてこうも違うんだ。
「ほらっ、やめようこんな話!せっかくの楽しい楽しいワクワクの旅行何だからさ。
そういって湯から上がり、体を洗おうとする。
「背中こすってやるよ。」
「えぇー?なになにー男の友情って奴ー?いいよーキモイ。」
ったくどいつもこいつも…。