『月陽炎~真章・銀恋歌~』-29
30 『私はひとりっ子ですからね。だから、こんな賑やかな家がとても好きです』
『悠志郎は兄弟いないの?』
『ええ……だから、ここで過ごして一週間くらいしか経っていませんが……なんだか美月は、本当の妹みたいに感じますね』
『妹……?』
美月はきょとんとした目で、意外そうに悠志郎を見上げた。
『生意気で乱暴だけど、根は優しいいい子です。美月は』
『生意気で乱暴は余計だよっ……』
ふんっ、と鼻を鳴らして横を向いてしまったが、妹と呼ばれてもそれほど嫌がっている様子もない。
むしろ、その表情はまんざらでもなさそうであった。
『ふあぁぁ〜ぁ』
夕食後からずっと自室で小説を読んでいた悠志郎は、そろそろ眠気を感じて大きなあくびをした。
懐中時計で時間を確認すると、夜の十一時を数分まわっている。
母屋は既に寝静まる頃だ。
……あ、いけないっ!
まだ便所に行ってなかったことを思い出した。
ついつい小説に熱中してしまったために、早めに行っておくのを忘れてしまったのだ。
どうしよう……柚鈴はまだ起きているだろうか?
そう思った時、不意に廊下に人の気配を感じた。
『悠志郎さん、まだ起きているんですか?』
『ああっ、柚鈴!』
天の助けとばかりに障子を開けると、そこにはまだ寝間着に着替える前の柚鈴がいた。
『よかった……今、起きているかどうか見に行こうと……』
『ふふふっ、お便所でしょう?』
既にお見通しらしい。
なんだか母親についてきてもらう子供のようで情けなかったが、ひとりで行けないのだから仕方がない。
悠志郎はガクガクと頷き、柚鈴に伴われて離れにある便所で寝る前の用を足した。
『悠志郎さん……もう眠たいですか?』
部屋に戻ってくると、柚鈴は躊躇うように上目遣いで悠志郎を見つめる。
夜も更けたし、そろそろ眠くなるのが当たり前だろう。
柚鈴の質問の意図がよく分からずに、悠志郎は首を捻って彼女を見つめ返した。
『あの……もう少し、この部屋で……悠志郎さんと一緒にいて……いいですか?』
もじもじとはにかんだ様子の柚鈴は、抱きしめたくなるくらい可愛かった。
そんな顔をして言われては、駄目だとは言えない。
『でも、私はすぐに寝てしまうかもしれませんよ?』
『あの……だったら、膝枕……してあげましょうか……?』
柚鈴はおずおずと言った。
程よい弾力と心地よい温かさ……そして柚鈴の匂い。
まだしてもらったことはないが、それらが次々と頭の中に浮かんできて、悠志郎は間髪を入れずに頷いた。
そっと畳の上に正座する柚鈴の膝元に顔を寄せた悠志郎は、その緋色の袴を見ているうちに、ふと悪戯心を覚えた。
素直に膝の上に頭を乗せず、袴の裾を捲ってその中へと潜り込んでいく。
『わ、きゃ〜〜っ!悠志郎さぁんっ!!』
『え?どうしました?』
『どうしてそんな所に入り込むんですかぁっ!!』
『いや、目算を誤るうちについ……』
袴の中は柚鈴の……女の子独特の甘い匂いが充満していた。
目の前には暗い中でも白く浮かび上がる彼女の太股が見える。
悠志郎がその太股に手を這わせると、柚鈴は思わずという感じで立ち上がった。
『やぁぁんっ!もうーっ、早く出てくださいっ!』
袴の上から頭をグイグイと押されるが、悠志郎は太股にしがみついて耐える。
柚鈴が立ち上がったことによって、逆に触れる部分が増えた感じだ。
『ああ……柚鈴の太股はすべすべして気持ちがいいですねぇ〜』
『や〜ん、やだやだっ、悠志郎さんっ!』
最初は単なる悪戯のつもりだったのだが、柚鈴の可愛い反応を聞いているうちに、なんだか妙な気分になってきた。