カピバラの彼氏-7
刹那、店内につんざくような高い悲鳴が響く。
鈴木の声よりも、和史くんの声よりも、最初に耳についた、店員の声。
ただ事じゃないことをしている自覚はあった。
店内に呑気に流れている有線放送が、高校の時に大流行したドラマの主題歌だってこともちゃんと頭では理解できるくらい、冷静なつもりだった。
なのに、身体が止まらない。
奴の胸ぐらを掴んだ俺は、そのままその細い身体を立ち上がらせたと思うと、床に突き飛ばした。
「な、何だよアンタ!!」
突然知らない男に暴行を受けた和史くんは、声を震わせながらもなんとか口を開いた。
だけど、恐怖で瞳が揺れている和史くんの顔すら、俺の感情を逆撫でする。
舌打ちを一つして、そのまま奴の細い身体に馬乗りになると、彼の喉から声にならない悲鳴がヒュッと漏れた。
改めて見ると、やっぱり茜の彼氏と見紛うことはなかった。
あの待受画面と同じ顔。あの待受画面では、頬と頬を寄せ合って、二人して楽しそうに笑っていたのに。
泣き出しそうな顔でこちらを見ている和史くんの顔を見てると、こちらまで胸が締め付けられるように苦しくなった。
―――ま、茜の顔見てると萎えるから、いつもバックかあとは顔に枕抑えつけながらやってればいいんだもん。アイツ、声だけは可愛いから、他の可愛い女を想像しながらやれば結構いい感じだよ。
いい年した男と女が付き合うのだから、身体の関係が全くないとは思っていない。
だけど、こんな扱いってねえじゃねえか。
茜は単なるセフレとしてしか扱われていなかったなんて。
本当に、愛情のかけらもないような抱き方をされていたなんて。
彼氏が欲しいといつも努力して空回りしてばかりの茜が、やっと掴んだ幸せを嬉しそうに語るあの顔を思い出すと……。
胸ぐらを掴んだ手が怒りで震え、どうにも抑えられなくなった頃、俺はもう片方の手で、和史くんの左頬に拳を入れていた。