カピバラの来襲-3
女のぽっちゃりの基準はわからないけど、そんな理由で惨敗したってことは、茜は少なくとも55キロ以上あるってことだろう。
グレーのスカートからのぞく脚は、ムチムチの大根脚。スカートとお揃いのジャケットもパツパツ。
これが俗にいうマシュマロ女子って言うんだろうな。
男はわりとふっくらした女を好む奴もいるし、そんな奴らには茜はウケそうなのに、コイツはまともに男と付き合ったことがない。
確かに茜はブ……並よりやや下レベルだけど、男に全く相手にされないタイプじゃないと思うんだ。
歌が上手いから、カラオケを一緒に行くとめちゃくちゃ楽しいし、そこらの女じゃ決してやらない、ものすごい変顔とかやってくれるし、ノリがとにかくいい。
それに、愛嬌だってある。
でも、付き合うまで発展しないのだ。
茜自身もそれをよくわかっていたのか、大学を卒業した途端、彼氏作りからすぐさま婚活に切り替えた。
曰く、容姿を若さでカバーして、さっさと結婚するんだとか。
だが、持ち前の明るさと積極性で、婚活を行っているものの、結果はすべて惨敗。
見合いをしても、婚活パーティーに参加しても、街コンに繰り出しても、全く持って収穫がないという。
それを毎度俺んとこにきて愚痴るもんだから、もう俺の週末はほとんどコイツに潰されてる状況だった。
「なんで太った人をそうやって差別する人が多いんだろ! 太ったって魅力的な人なんていっぱいいるじゃん! 水卜アナとか!」
そのままゴロンとソファーに横になった茜は、相手のことでも思い出しているのだろうか、悔しそうにクッションにパンチをしていた。
「いや、水卜アナは顔が可愛いから、多少太っても許されるんだっての」
水卜アナだったら、俺だって付き合いてえよ。
「だって、あたし水卜アナと体重おんなじだよ!?」
「だからってお前が水卜アナになれるわけじゃねえよ」
お前はどうみてもカピバラじゃん、と喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込む。
そもそも、体重が同じだからって、水卜アナと同じ土俵に立とうとするのが間違ってるっての、このカピバラが。
そう言って、マジマジと茜の顔を見るけれど。
酒で赤くなった顔は浮腫んでて、普段より一回り大きくなってるし。
小せえ瞳に、やや上向きのだんごっ鼻。ビーバーみたいな前歯。
……うん、やっぱりカピバラだ。