もっとカゲキに愛して-1
乾いた風が頬に冷たい。
街の様々な場所がバレンタインムードに包まれている。
電車に乗って彼の家へと向かう。
改札を通り、見上げた空は灰色の雲が重く垂れ込めていた。
折りたたみの傘を持って出ればよかったと思った。
最寄りの駅に着いたことを彼に連絡してから歩き出す。
この道もだいぶ見慣れてきた。
深夜、聡と話したことを思い出す。
わたしは友達にも恋人にも恵まれている。
前の恋人と別れたときは、なんて不幸なんだろうと嘆いた。
もう誰もわたしのことなんか好きになってくれないんじゃないかって、絶望的な気持ちにさえなった。浮気を繰り返してきた彼といっしょにいるたびに、わたしは自分の価値を見失い、自らを擦り減らしていった。
そんなときにも聡はいつもわたしのそばにいて、わたしを全力で励ましてくれた。
ほんとうに、わたしは恵まれている。
緒方さんはわたしにはもったいないくらい魅力的で素敵な男性。
わたしは、彼に釣り合うような女になりたいと切に思う。
月に一回、美容の日を作ろう。
美容院へ行って、ネイルサロンへ行って、フェイシャルエステに通おう。
お料理の勉強もしたいな。
それから、またお習字教室にも通いたい。
社会に出て、コンピュータに向き合う時間が増えた代わりに日常的に字を書く機会がぐっと減った。
筆を取ることはさらに減った。
紙に向かうときの正しい姿勢。
きりりと引き締まった気持ち。あれらをまた感じたい。
ガチャリ。
ドアが開いて、緒方さんの笑顔と出会った。
彼の笑顔はぶれることなく、いつも正しく誠実で、わたしをこんなにも安心させてくれる。
あたたかい部屋に入って、コートを脱ぐ。
コートスタンドに掛け、振り返ったところを彼がぎゅっと抱きしめた。
キスを交わす。ほのかに珈琲の香りがした。
「あの下着、つけてきてくれた?」
「はい。ストッキングは鞄に入っています」
「そっか。すごく可愛い下着だったから、真緒に似合うと思って」
「わたしにはもったいないくらい可愛くて素敵だと思いました」
「もったいなくないよ。脱がしていい?」
「あ……、はい」
彼が優しく、わたしのカーキ色のモヘアのセーターとブラックのインナーをたくし上げる。
「はーい、ばんざーいしてー」
「緒方さん、お父さんみたい」
くすくす笑いながら両手をあげる。
スポッと洋服が脱がされ、白いレースのブラジャーが露わになった。
「うん、やっぱりよく似合ってる。スカートも脱ごうね」
左腰のチャックを下ろし、ストンとミモレ丈のフレアスカートが落ちる。
散々迷った挙句、結局ガーターベルトを身につけてからショーツを履き、ストラップは垂らしたままスカートとソックスを身につけた。
彼が身を屈め、チャコールグレーのリブソックスをじわりじわりと脱がしていった。
「なんだか……すごく恥ずかしいです」
「俺の着せ替え人形みたいだもんね」
鞄から取り出したガーターストッキングを丁寧に履く。
彼が何度も頷いて、似合ってるよと言った。
舐めるような視線。胸の奥がきゅっとなる。
「その格好のまま、しゃぶってよ」
緒方さんがわたしの頬に触れながら言った。
わたしは彼の目を見つめたまま、こくんと頷いた。
カチャカチャとベルトが外される音。
わたしはその場に膝をついて、顔を見せた彼の男根に触れた。
舌を長く出し、竿に這わせるようにして舐めていく。
緒方さんがため息のような声を洩らした。
彼がわたしの髪を撫でる。慈しむように、ゆっくりと。
「真緒、こっちを見上げて」
先端部分をくちに含み、彼を見上げる。セクシーな目元だと思った。
「可愛いよ……真緒、すごく可愛い」