約束-5
まさに、蜂蜜色。
透明度が高く、さらりとしているように見える。
ふたを開け、スプーンですくって指で舐めてみる。
香りはそんなに強くはなく、でもとても甘くて濃厚な味がした。
クセがあまりなく、上品な蜂蜜だと感じた。
ホットミルクにそのままスプーンを入れ、ゆっくりと掻き混ぜる。
掻き混ぜるときに出る音って、なんだかあたたかみがあって好きだなぁと思いながら。
あたたかくて、ほんのり甘い飲み物は眠れないときに良いと聞いたことがある。
こころを落ち着かせ、身体をあたため、眠りに入りやすい状態にさせてくれるのだそう。なんとかという脳内物質が出て──なんて専門的なことは、忘れてしまったけれど。
ひとくち飲んで、ホッと息をつく。
厚手のカーディガンを羽織っていても、身体の中からあたたまることには敵わない。
じんわりと、耳のあたりまであたたかさが広がっていく。
カップを置き、もうひとつの白いギフトボックスのリボンを解く。
緒方さんがわたしのために、わたしを想って選んでくれたランジェリー。
それは純白の、繊細な刺繍レースが美しい一枚レースのブラジャーと、お揃いの刺繍レースがフロント以外に広がるショーツ、そしてフロントレースのガーターベルトと幅広レースのガーターストッキングという豪奢なランジェリーだった。
「わあ……すごい」
こんな贅を凝らしたランジェリー、身につけたことがない。ガーターベルトなんて……手に取ったことすらなかった。
わたし、これを身につけて緒方さんのおうちに行くのよね?
……似合うのかしら。わたしに。
正直、自信がなかった。
一枚レースのブラジャーだって、生まれてこのかた身につけたことがない。
一枚のレース仕立てのブラジャーは脇の部分からあるドレープチュールが胸を支えるため、ふだん使っているものとはまったく異なる。
まず、このブラジャーをわたしはうまく身につけることができるのかしら……。
でも、約束したから。
……とりあえず、このガーターストッキングは彼のおうちについてから身につけることにしよう。
ガーターベルトはどうしよう……。
でも、ふつうはガーターベルトをしてからショーツを履くのよね?
ガーターベルトをして、ショーツを履いて……ストッキングを留めるためのストラップはどうしよう? 垂らしたまま? あぁ難しい。
カップの横に置いたスマートフォンが鳴った。
こんな夜中に?
送り主は聡だった。寝てたらごめん、起きてたら連絡ちょうだいと書いてあった。
起きてるよと返信をする。すぐに電話がかかってきた。
「真緒ちゃんも起きてたんだね」
「うん。なんだか眠れなくて。ホットミルクを飲んでた」
「そうなんだ。──真緒ちゃんの彼氏、ほんとうに素敵なひとだね。ちょっとうらやましいって思っちゃった。格好良くて気さくで……。真緒ちゃんの彼氏じゃなかったら、好きになってたかも」
「うん……」
「正直、ほんとうに惚れそうになっちゃった。真緒ちゃんじゃなく、誰か他のひとが彼の恋人だったら、俺……。でも、真緒ちゃんの彼氏だから──」
「うん、うん……」
ゆっくりと、噛んで含めるような聡の声。電話を通すとひとの声って、どうして直に聞くより軽く乾いたように響くんだろう。
ホットミルクを、くるくると円を描くようにゆっくりと掻き混ぜる。
膝を抱えるようにして座り、カーテンから零れる月の光を眺めた。