約束-3
「あの、真緒ちゃんからお話を聞いていたんですが、ほんとうにすごく格好良くて素敵だなって僕も思いました。あの、その……緒方さんのこと」
「ありがとう。真緒はどんなふうに聡くんに俺の話をしているんだろうなぁ」
「もう、のろけ話ばっかり聞いています。でも、なんだか真緒ちゃんの気持ちがわかるような気がします」
「ちょ、ちょっと!」
「のろけかぁ。嬉しいね。聡くん、モテるだろ? 真緒の世話、ありがとうね」
「そ、そんなことないですっ。僕なんて、全然……」
緒方さんの言葉にドキドキしながら、聡の目つきにヒヤヒヤする。
恋する乙女のような目。キラキラしていて、潤んで見える。
やっぱり聡は緒方さんに好意を持っているんだわと思った。
いや、でも緒方さんに好意を持たないひとのほうが少数派かもしれない、とも。
「緒方さんこそ、絶対モテますよね。どうして真緒ちゃんを?」
「一目惚れ。真緒が入社してきた日にね。真緒の目にピンときたっていうか。それからずっと気になっていて、真緒のことを見てた。すごくがんばり屋さんだし、とても綺麗な字を書く子だなぁっていつも感心してた」
「そうだったんですか。やるなぁ、真緒ちゃん」
胸がいっぱいになる。ここがお店ではなく緒方さんのおうちだったら、わたしは迷わず彼に抱きついていただろうなと思った。
彼がわたしをちらっと見て、にっこりと笑った。
あぁっ、わたしこの笑顔だけで三人分のお寿司をぜんぶ食べきることだってできちゃいそうっ。
「聡くんは真緒といて、そういう気持ちになったことってなかったの?」
「えっ、真緒ちゃんにですか? ないですよ、真緒ちゃんは親友だしお姉ちゃんって感じですもん。僕、年の離れた兄がいるんですけど、小さい頃からいっしょに遊んでいたのは真緒ちゃんだったので。真緒ちゃんの髪の毛を結ってあげて、リボンをつけてあげることが好きでした。それで、美容師になりたいなって思ったんです」
「なるほど、そうだったんだ」
これはわたしも初めて聞く話だった。
へぇ、そういった理由があったんだ。
聡の夢に知らず知らずのうちに関わっていたなんて。
なんだか誇らしい気持ちになる。
「真緒ってどんな子どもだったのかな?」
「負けん気の強い、活発な女の子でしたよ。運動神経が良くて、僕、縄跳びの特訓をしてもらったこともありました」
「そうなんだ。なんだか想像がつくな」
緒方さんがくすくすと笑う。
そんなこともあったなぁとわたしは思った。
懐かしい気持ちになる。
辺りが真っ暗になるまで練習した二重跳び。
何度も何度も、足を引っ掛けて泣きそうになる聡を励ましながら、ふたりで向かい合わせになって跳んでいた。
聡は小さい頃から愛らしく、周りのひとに『この子を守ってあげなくちゃ』と思わせるものを備えていた。
聡が困っていたらたくさんのひとが彼を助け、彼の力になろうとした。
わたしも、お姉ちゃん分として聡のためならたとえ見たいアニメがあったとしても、彼を優先し、彼のために奮闘した。
今ではこんなに立派な大人になって──と、同窓会のたびにみんなが言う。聡の笑顔はみんなに力を与えた。
「家族ぐるみで旅行に出かけても、一番張り切っていたのは真緒ちゃんでした。僕の兄のあとについてすごく遠くのほうまで泳いで行ったり、僕よりたくさんのカブトムシを捕まえたり。ほんと、すごく腕白な女の子でしたよ」
「泳ぎに……ってことは、もしかして聡くんも真緒の太ももの付け根のほくろ、知ってる?」
「あぁ、ありますね。指摘したら恥ずかしいって殴られたことがありますもん」