『graduation番外編〜彼女が嫌いな彼女〜』-5
それから私は都築先輩という人の観察を始めた。
実はそれまでそんなに興味はなかったのだ。
都築先輩は優しい。誰にでも。だから後輩に一番人気なんだ。
でも......
「あゆみ姫、都築先輩にご執心って噂でてるぜ、怖いなサークルって。まるで村社会だ。」
300円の学食うどんの乗ったトレイを机に乗せながら、サークルで1番の仲良しの隆志が面白そうに言った。
女友達のいない私には隆志はいなくてはならない存在だった。
大学やサークルなんて所詮、やっすい結婚相談所のようなものだ。
そこで条件に合った男を見つけて付き合ってみて、合わなかったら次の男に乗り換える。
だからサークルの仲は常にカップルでいっぱいだし、元カレ元カノのオンパレード。
すったもんだの挙句どちらかがやめたりする。人類皆兄弟みたいな状態になっているところだって珍しくない。
発情期のオスとメスが狭い空間に一緒にいるんだから仕方ない。
「なに、考えてんだよ。こんなイイオトコが目の前にいるのに。」
隆志が箸の裏で私の頬を軽くつついた。
「ごめんごめん。何?都築先輩の話だっけ?」
「そ。」
「別に。ただちょっと興味があっただけ。雪見先輩と仲良いみたいだから。」
そのあたしの言葉に隆志がほっとした顔をする。
この男があたしを好きなことくらい分かってる。
けど、あたしはあたしを好きな男を好きになったりはしない。
「なんだ。でも雪見先輩と都築先輩仲良いのか?雪見先輩はサークルあんまり来ない人だから分からないけど、喋ってるの見たことないぜ。」
そうなんだよねと思う。
雪見先輩が都築先輩を好きなのは、最初に会った時から分かった。
あんな反応バレバレだ。
しかもいつだって、彼女の瞳の端には都築先輩がいるのをあたしは見逃さなかった。
けど、都築先輩は?
なんで2人は喋らないの?雪見先輩は仲悪い人を好きなの?
「お前、雪見先輩好きだよね。いつも目で追ってる。」
隆志の言葉に少しだけ驚く。
「そんなに顕著?」
「いや、いつもお前見てるからなんとなく分かる。」
「っていうか完璧すぎて、なんか信じられないんだよね。雪見先輩って。」
さりげない口説き文句を完全にさらりと流した。