『graduation番外編〜彼女が嫌いな彼女〜』-11
「あ。あゆみ、どいて、邪魔。」
今気付いたよ、いるの。という感じでちょっと押され、完全に雪見先輩は私に背を向けた。
あんたなんか目に入らない、そう言われた気がした。
「なんだよ。」
都築先輩の不機嫌そうな声が、雪見先輩の背中ごしに聞こえてきた。
雪見先輩は都築先輩の顔をつかみ、校舎の階段の方にに向けると、
「あんた少しは『彼女』大切にしなさいよね。」
大声で言った。まるであたしやサークルの人達に聞かせるように。
そっちを向くと、一人のパーマの女の子がこっちをじっと見ていた。
真摯な目。
あの子に、雪見先輩は負けたのね。
雪見先輩はどんな顔をしているんだろう。
すごく気になった。
こんな形で、きっと自分の気持ちに決着をつけたんだろう。
こんな形でしか、自分の気持ちに整理をつけられなかったんだろう。
......。
凛としていた。
今まで見た中で1番綺麗だった。
ああ、あたしはこの顔がホントは1番見たかったんだ。
歪んだ顔なんかじゃ、全然なくて。
証明して欲しかったんだ。
雪見先輩は姉とは違って汚れてはいないって...。
いや、姉も決して汚れてはいなかったのだって...。
それを雪見先輩に求める事はお門違いもいいとこだけど。
――大キライです、憧れています、憎いです、好きです、羨ましいでえす、お世話になりました――
言いたい言葉は確かにあったのだけれども、雪見先輩の背中を見ているだけで、何も言えなくなってしまった。
そして雪見先輩は、その場にいる全員がなんとなく呆気にとられて、なんとなく狐につままれたような気分になっているのをいいことに、さっさと退場していった。
そしてそれっきり。
あたしたちは雪見先輩に棄てられた。
全員参加の筈の卒業式の卒コンも、その後のサークルの飲み会も、私達の卒業式にも、雪見先輩は一切来なかった。
雪見先輩への連絡が全くとれなくなったという話を聞いたとき、皆が謎に思っているのを横目にあたしは、彼女はそこまでしなければならないほど都築先輩を好きだったんだ、と一人納得した。