『graduation番外編〜彼女が嫌いな彼女〜』-10
きっと何も言わないんだろうな。
でも絶対、助けてはくれるんだ。
放っておいたりはできない人なんだよ。
そして、この話は絶対、他の人に言ったりはしないんだ。
――――里美先輩とは違って。
そう。里美先輩がペラペラ喋ったらしく、一年の女子が都築先輩をめぐって壮絶な殴り合いの喧嘩をしたという噂がまたたくまに広まった。
おかげで卒業式まで好奇の目に晒され、都築先輩に近づくこともままならなかった。
でも最後のチャンス。
あたしは今日、卒業式にかけることにしていた。
あれから香子は大人しくなってしまって、あたしは卒業祝いの花束を都築先輩に渡す役を難なく勝ち取っていた。
筋書きはこうだ。
花束を都築先輩に渡す→あたしが泣き出す→都築先輩があたしの背中を優しく撫でる→あたし、それに抱きつく。
これを雪見先輩に見せ付けてやる。
当初の一夜寝るという予定からは大きく離れていたが、贅沢は言ってられなかった。
卒業すれば雪見先輩との接点はゼロになるから。
私は鏡を見た。
髪型よし。服よし。顔よし。可愛い。完璧だ。
向こうの方に雪見先輩が見える。こっちを見ている。
都築先輩が佐伯先輩に呼ばれて、あたしたちの近くにやってきた。
駒は揃った。
「センパイ。」
白を基調とした花束を抱きしめ、都築先輩の前に立つ。
涙は自然に出てきた。嘘泣きはお手の物とは言え、少しはこのセンパイの事あたしホントに好きだったのかも。
「卒業しちゃうなんて...。」
言ったら結構な量の涙が零れ落ちた。
「あゆみ...。」
優しく都築先輩が私の肩に手を置こうとする気配がした。
瞬間だった。
影が間に入った。
パッと顔を上げると白い着物が目に入る。
雪見先輩だった。
「どうせ両方とも財源、同じサークルから出てんだから、とりかえてよね。私、ピンクより白の方が好みだな。」
そう言うか言わないかのうちにあたしが都築先輩に渡した花束を取り上げ、自分が持っていた花束を代りにポンと置いた。