『rule【A面】』-9
わたしと小百合は深く頭を下げて、病院を後にした。
帰りはタクシー。
帰りも救急車で運んでくれると勝手に思っていたわたしは驚いた。
2人並んで後ろの席に座る。
そっと小百合がわたしの頭を自分の肩に引き寄せた。
「もうやめなきゃ...」
わたしは小さく呟いた。
でも...やめるほどのものが、わたしと時田の間には寝ること以外に何かあるのだろうか。
それを考えると、絶望的な気分になった。
「やめなきゃ。」
何度も何度もその言葉を繰り返し吐いた。
小百合はなにも聞かず、ただ頭を撫でてくれた。
目覚めると、心配そうにわたしの顔を覗く時田の顔。
驚いて、飛び起きた。
「大丈夫ですか。風邪うつしたの俺ですよね。ホントすみません。」
泣きそうな顔をしている。
あぁ...そう言えば時田は一つ年下だったのだ。
だからこんな顔をしてもおかしくない。
それなのにすごく違和感があった。
これまで彼はいつだって冷静で余裕だったから...。
「あんたの携帯、ずっと鳴りっぱなしでうるさかったから勝手にとらせてもらった。」
小百合が台所から水の入ったコップを運んできながら説明する。
「どうしてもあんたに今日会いたいって言うから、仕方なくここに来ることを許可したってわけ。」
小百合はつまらなそうわたしにコップを手渡す。
わたしは落ち着く為にその水をいっきに飲み干した。
「お願いがあります。少しだけ、2人にしてください。」
時田が小百合に深く頭を下げた。
小百合は小さく溜息をつくと
「コンビニで氷買ってくる。15分がタイムリミット。」
そっけなく了承した。
その口調で怒っていることが分かったが、何もフォローを入れなかった。
わたしも時田と2人きりになりたかったから。
そしてそれを小百合も気付いていることを、わたしは知っていた。