『rule【A面】』-8
目が覚めてまっさきに呟いた。
「何でわたし、時田の彼女をあんな美少女として夢に見ちゃったんだろう。」
そう。
夢の中の彼女は、その現実の彼女よりも、ずっと愛らしく、美しかった。
現実の彼女はとても愛想なしなのに...。
歪んでいる。
確実に、歪んできている。
起き上がろうとすると、クラリとした。
「うつったか。」
異常に熱い自分の体温に気がつく。
吐き気を催してトイレで食べたものを出してしまう。
と、急に色々な想いが溢れ出してきた。
時田がわたしにくれるものなんて、
風邪だったり、使えもしない鍵だったり、3年間付き合った彼氏との別れだったり、罪悪感だったり、こんなどうしようもない気持ちだけなのだ。
そんなこと分かっていてわたしはこの関係を選んだのだ。
...この関係が終わるのは『どちらかが他の誰かを本気で大切にしたくなった時』もしくは『相手を本気で束縛したくなってしまった時』?
『相手を本気で信用できなくなった時』も含めるべきだった。
......では、わたしは、時田を信用していないの?
自問自答した途端、涙がこぼれ落ち、呼吸が荒くなった。
慌てて息を吸い込む。吸い込む。吸い込む......。
ハァハァハァハァハァハァ....
気が付くと、その場に倒れたまま動けなくなっていた。
足の指も、手の指も硬直し、反り返っている。
(わたし、死ぬのかな...)
人の彼氏と寝るなんて、彼氏がいるのに他の人と寝るなんて、人として最低限のルールを破ったから、死ぬのかな...
馬鹿みたいにそんな考えだけで、頭がいっぱいになった。
「どうしたの!」
慌てたように左の部屋から小百合が飛び出し、救急車を呼ぶのが見えた。
「心配ありません。『過呼吸』です。」
医者は冷たく言って、紙袋を渡してきた。
「まぁ熱の所為でしょうね。精神的なものでもなりますが...。とりあえず、練習しときましょうか。」
そう言うと、紙袋に息を吐き、そして吸うよう指示してきた。
言われたとおりにする。
「酸素を吸いすぎてしまっている状態ですからね。紙袋がなければゆっくりと深呼吸するのですよ。」
体育の授業で聞いたことはあったが、まさか自分がそんなものになるとは。