『rule【A面】』-7
一人暮らしで体調を崩す辛さはよく知っている。
だからすぐ、駆けつけようと思った。
時田の最寄の駅前のコンビニでお粥と桃のゼリーと水と氷を買って。
もらったばかりのスペアキーを握りしめ...
その時だった。
【彼女が来てくれました。】
残酷なメールの文字が飛び込んでくる。
「ああ...そうだよね。」
自分の中で、何かがガラガラと崩れた。
勇み足な自分に苦笑するしかない。
【具合悪いの分かってんのに、牛丼なんて脂ぎったもの買ってきやがりましたよ】
そんなメールが後から来たが、返信もせずに電源を切った。
これ以上、傷つけないで欲しい。
わたしは踵を返し、来た道をゆっくりと戻るしかなかった。
小百合の待つ家まで、着かないのではないかと思うほど、足が重かった。
それでも必死にわたしは家に辿りつき、もう名ばかりの彼氏に電話した。
「好きな人いるんだろ。」
わたしが切り出す前に、そう問われて、何も言えなくなった自分がいた。
わたし達は実にあっけなく3年という長い付き合いに幕を閉じた。
何の痛みも感じない自分の冷たさが、更に自分の心を凍らせていくような気がした。
その夜、夢を見た。
わたしと時田は商店街を歩いていた。
時田の彼女があと何分後かに来ることを知っているわたしは、そっと時田の腕から手を離し、脇にある本屋の2階へ行く。
窓の下に見える景色。
時田に、時田の彼女が駆け寄り、わたしが先ほどまで絡ませていた腕に、今度は彼女が腕を絡ませる。腕が徐々に上にあがり、時田の首にまで絡まっていくと、彼女は優しく時田の唇に唇を寄せた。
少しパーマをかけた小さな、ものすごく可愛い甘え上手の美少女。
時田のことなんか一切目に入らなかった。
その少女ばかりに目がいった。
夢の中でさえ「女」は「女」なのだ。
春の風。薄手のピンクのセーター。整列された商店街の木々。ポツンポツンと置かれた自転車......。