『rule【A面】』-6
甘いものを断つ時には勢いが必要だ。
時々、どうしても思ってしまう。
期待しないよう、絶対に勘違いしないよう、細心の注意を払っているというのに。
もしかしたら愛されているのではないか、と。
こんな風に一緒に柔らかな雨の中、目を覚ました朝には。
「時田に会いたいな。」
今別れたばかりだというのに、そんな呟きを脳を通さずに口が漏らしていて、自分でそれに驚いてしまう。
あんなズルイ男。彼女がいるのに、大切にすべきものがちゃんといるのに、大切にすべき者を大切にすることは簡単なことの筈なのに、それができないダメな男。
わたしは、彼氏とは就職活動で殆ど会えなくなっていた。
時田とゲームを始めてから半年。
のらりくらりと彼氏と寝ることを避けている。
というよりも、会うことさえ最近は避けている。それに彼氏が気付いていない筈はない。
このまま自然消滅するのかな。
時田はちゃんと彼女と寝ているのに......それは彼の体に残された跡や何かで分かる。
わたしはそれについて何も言わない。
言う資格がないから。
そしてわたしは彼の体に何も残さない。
残す資格がないから...。
踏み切りのところでそのどうしようもない男からメールが来た。
【あとでゼミで。そ知らぬ顔で。】
そんな文言が目に飛び込んでくる。溜息をつかざるを得ない。
「そんなこと、言われなくたって分かってるよ。」
愛されているかもしれない、なんてほんの少しでも期待した数秒前の自分を殺したくなった。
何も期待しない...これはゲーム。
しかしその日、時田はゼミに来なかった。
4月からそんなことは一度もなかったので、ゼミが終わり次第わたしは慌ててメールする。
【どうした?】
すぐに返って来たのは
【風邪ひいたみたいです。なんか熱出ました。】
という文字。
裸なんかで寝るからだよ。
そう思ったが、わたしは乗るべき電車を変更した。