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『rule【A面】』
【青春 恋愛小説】

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『rule【A面】』-5

時田のアパートは学校から30分電車に乗って、10分歩いたところにある。

入ると、玄関先なのに抱きしめられた。

多分、彼女と手を繋いで歩いているところを見られたことにちょっとした罪悪感でもあるのだろう。

わたしがその話を切り出す前に抱いてしまおうという魂胆か。

どこまでもズルイ男だ。

「今朝別れたばかりなのに、今日も会いたくなってしまいました。俺、もうだめかもしれません。」

そんな可愛いことを言ってくるが、それだってゲームの一環だ。

気持ちよく寝るための嘘。

「なんで敬語なの。」

前から気になっていたことを、口にしてみた。

わたし達は1つしか歳が変わらないし、なんたってこんな関係なのだ。

「いや、俺不器用なんですよ。だから1回タメ口きいちゃったら、多分どっかで絶対でると思うんです。ゼミの最中とかに出たら最悪じゃないですか。」

時田はわたしの髪を撫でながらそんなことを言った。

そんなに不器用な男には見えない。

でもそんなことを言われたらそれ以上は何も言えない。

名前を呼び捨てで呼んでみて、って言ってもみたくなったけど、同じ理由で断られるのが怖くて言い出せなかった。

わたし達はいつだって言いたい言葉に蓋をするようにキスをする。





目を覚ますと薄明かりの中、本棚が目に入った。

視線を下ろすと自分の体が目に入る。昨日放埓の限りを尽くした跡が生々しくて、わたしは慌てて服を着た。

わたしはこの部屋がとても好きだ。

難しい専門書ばかり並んでいるかと思えば、そっと田中芳樹の『銀河英雄伝説』が外伝まで揃っていたりする。

「おはようございます。」

甘えた声で起きてくる彼にコーヒーを渡した。

コーヒーメーカーがどこにあるか、カップがどこにあるか、砂糖は何杯いれるか、半年も続けていれば自然と分かる。

わたしはコーヒーが飲めないから、牛乳。

一度紅茶の葉を買ってきてくれたことがあったが、そのまま自分の家に持って帰った。

わたしのためのものは、一つとしてこの家に残されるべきではないと思ったから。

「帰る。」

なるべく冷淡に言った。

外から聞こえる雨の音が心の中をかき混ぜそうな予感がしたから。

「傘1本貰っていくね。」

玄関に5、6本山積みになっているビニール傘の1本を手にとると潔くその部屋を後にした。


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