『rule【A面】』-4
時田が学校の前の道路を女の子と楽しそうに笑い合いながら歩いていたのだ。
手を繋いで。
違う道に行こうと思ったが、気付くのが遅かった。
仕方がない。
「時田お久しぶり。」
昨日寝たばかりというのにわたしはにこにこ笑って手を振った。
ぺこりと時田が頭を下げた後、彼女に何か説明している。
きっとゼミの先輩なのだ、とかなんとか言っているのだろう。
嘘じゃないよな、それは。
さっさとわたし達はすれ違い、もう振り返らないと見えない距離になる。
これがわたし達の距離...。
「トウコ...顔ひきつってるよ。」
隣で歩いていた小百合がそっけなく言った。
「そんなことないよ。」
慌てて言ってはみたが、確かに顔が強張っているのが自分でも分かった。
「今の2年の時田でしょ。有名だよね、頭いいから。下の学年の主席入学じゃなかったっけ。」
小百合が話題を引っぱる。
「ゼミが一緒なだけだよ。」
なるべく感情が出ないように言った。
「...なんでもいいけど、略奪だけはやめときなさいよ。略奪した男っていうのはね、また他の女に略奪される運命にあるんだから。」
珍しく小百合が干渉めいたことを言ってきた。なんて勘の鋭い女なんだろう。
彼女なりに心配してくれているのが分かったが、
「しないよ。『人のモノは盗っちゃいけません』って幼稚園で習ったからね。」
うそぶいた。
...そう...盗るつもりなんて全然ない。
これはゲーム。ルールは守られなければならない。
ちょっとの間、借りているだけ。
ちゃんと、返還はするつもり。
その日、時田は第2水曜と第4水曜に会うという契約を破って電話してきた。
「今夜も会いたいんですが。」
わたしは二つ返事で了承した。