〜 書道その2 〜-2
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『体字』。 【B29番】先輩がホワイトボードを使って教えてくれました。 硯を使わず、筆も使わず、書道教室も使いません。 グラウンドに敷いた3メートル四方の大きな紙に、自分の身体と墨汁を使って、のびのびと大きな文字を書くという、一風変わった書道です。 ただしいくつか条件があって、墨汁の補充が禁止なことと、文字は5画以上の1文字であることと、1分という制限時間があることだそうです。
身体をどう使うかについては一切指定はありません。 逆にいうと、書く方法は自分で考えなくてはいけません。 とりあえず私がやったパターンを教えようかな――と【B29番】先輩がいいかけた時、22番さんが話に割って入りました。 曰く、『教官はヒントをくれないと思います。 他のクラスメイトにも伝えたいので、もしよければ、いろんなパターンを教えてください』だそうです。
彼女、頭おかしいです。 自分が正しいパターンを1つ知っていれば、それでいいじゃないですか。 他の人は、それぞれ勝手に頭を使って、自分なりにアレンジすればいいんです。 学園なんて自分のことで精一杯で、人の面倒なんて見てられないですよ。 それを、他のクラスメイトのためだなんて、アホですか? 先輩が後輩をフォローしてくれるならまだしも、同期同士の心配なんてナンセンスとしか――。
――あ、いや、違う、そうじゃないんですね。 22番さんの言動を考えてハッとしました。 沢山のパターンを知っていれば、より自分が有利になります。 それぞれ組み合わせたりして、自分が独創的に振舞えれば、それにこしたことってないですよね。 そっか、そこまで考えてるんですか……単に自分がクリアするだけじゃなくて、より高く評価されることまで見越して……うわぁ……。
なら、覚えているのを5つ教えてあげようか、おススメしないのもあるけどね、といって、【B29番】先輩はホワイトボードに『肛門液射型』『人書』『膣液射型』『貼書』『髪書』と大きく書いてくれました。
1つ目の『肛門液射型』です。 腸の中に墨汁を思いきり詰め込み、チョロチョロと排泄の要領で垂れ流しながら模造紙の上を歩きます。 随所で肛門を締め、液を止めたら次の字画に移ります。 肛門を緩めて再度墨汁を排泄し、線を描いてから再度肛門をキッチリ締めるの繰り返し。 こうすれば比較的簡単にどんな文字でも書けるそうです。 気を付けるべきなのは、腸に事前に浣腸した墨汁が途中でなくなったり、締めるのが遅くて『止め』が失敗したり、逆に緩めるのが早くて字が汚れてしまったりすることです。 ちなみに【B29番】先輩はこの方法で『汁』という字を書いたとのことですが、液がきれるのが怖かったため、事前に4Lの墨汁を浣腸したそうです。 4L……正直、生半可な量じゃないですよ……。
2つ目は『人書』でした。 両手を横に伸ばし、片足でまっすぐ立ちながらもう片方の足をクイッと曲げれば『本』という人型になります。 或は両手を斜めにおろし、片足立ちを組み合わせれば『命』という形になります。 先輩が実演してくれましたが、正直言われないとわかりませんけど、確かに文字っぽくは見えました。 で、模造紙の上に立って前述の姿勢をつくり、自分の前半身体に墨汁を塗りたくります。 塗り方については先輩は何もいいませんでしたが、液は肛門にいれておいて、手に少しずつ出してからペタペタと身体に塗ればいいのかな、と思いました。
全身が真っ黒になったところで紙に倒れ込めば、つくった人型文字が模造紙に反映して『人書』が完成です。 【B29番】先輩は、もしこの方法をとるんだったら、自分をただの部品として扱わなくちゃいけないよ、といいました。 具体的には、倒れ込むときに身体を庇っちゃいけないし、墨を塗るときに漏れがあっちゃいけない、鼻の上は勿論で鼻の穴の中までビッチリ墨をぬらなくちゃいけない、と。
鼻の穴って……なんだそれって思います。 鼻の穴に墨汁を沁みこませるってことは、目とか耳とか口もでしょうか? 目は閉じたらいいとして、耳は穴まで塗るんですか? この『人書』ですが、Bグループのどの先輩が実行したか気になります。 私は絶対やりません。