月が闇を照らす時-1
人類が月に貴重な第一歩をその地面につけたのも、もはや1世紀以上前になる。
もはや家族旅行で月はおろか火星にまで行くことができるし、車もタイヤが無くふわりと浮いて走るようになった。
人間の技術はどこまで進歩するのか。と考えるのも、円周率の最後の数字を考えるのもイコールで結ぶことが可能だと言う考えに行き着いてしまう。
その人間が考え出した技術の中で近年、グンと成長したのはナノ・マシーン技術である、と胸を張って言うことができる。
そもそもナノ・マシーンはナノサイズのマシーンの総称であるが、近年では人体に古来より宿っている生命力。つまりオーラを操ることができるマシーンの事を指す場合が多い。
人間は生まれたときに全員、ナノ・マシーンを投与される。これはさまざまな病から子供を守るためらしいが、実際は全人類を管理するためだ、と言う声が大きいのもたしかだ。
「もしも〜し」
皆さんは生命力を操ると結局どうなるのか、と言う事が気になる所だろうが。
「広樹さーん。聞いてますかー?」
結論から言えば人間がずっと
「もしも〜し! おーい!」
超能力と定義していたものが使えると言うことだ。
「広樹さん!」
「なんだよ! 人がみなさんに世界観を分かってもらうために必死に説明してるって言うのに!」
「そういうのがしたいのなら、勉強会を開こうなんて言わないでください! さっきからボーとしてるからペンが進んでいないですよ」
俺の前に居た幼なじみの西島緑が頬を膨らませてあさってのほうこうをむいてしまった。
そう、こんなに技術が進歩しても学校と言うのはテストなどと言うくだらない行事を俺たちに突きつけて来る訳で…。
「2038年」
「何?」
「ほら、2038年には何があった年?」
そういえば、今は日本史の勉強をしていたんだったな。
「第二国際宇宙ステーション完成」
「正解。 次2082年は?」
「ナノ・マシーンの投与の義務化」
「正解。 もう!変に頭がいいからイジメがいがないんだから…」
緑の頬は、もはやフグも顔負けに膨らんでいる。
不意に緑がこちらに手のひらを向ける、緑の手のひらからは台風並の風が吹き付ける。
思わず座ってた椅子ごと後ろに倒れる。
「いてーな!」
「何よ!皆さんに世界観を分かっていただくために能力を使ってみただけよ」
緑の顔はフグから嫌味な女上司みたいな顔になっている。
「さっきから二人ともうるさいぞ。静かにせんか。ここは学校の図書館だぞ」
「今思い出したよ」
「凪ちゃんも一緒に勉強会しよう」
品垣凪は袴姿で腰には木刀を提げている、いわゆる剣術少女である。
「いいぞ。元より私も勉強をしに来たのだ」
勉強会は凪に二人がかりで勉強を教えるスタイルへと自然となって行った。
「だから、オーラ質×オーラ量 がオーラ総価値なんだって」
「うーむ。理解した」
凪は理解したと言うものの何故かテストの点に結びついていない。
「本当に理解してる?」
「あぁ」
「じゃあ オーラ総価値とオーラ量が分かっているとき、オーラ質を求める式は?」
沈黙が辺りを包む。凪は質問をかけられたままの固まった。