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「よかった」
長かった初恋が終わったような気がした。
「佐藤も、私なんかよりずっとずっと大事な女の子が出来たんだね。
大事にしてあげて」
里香は心なしか、涙ぐんでいるように見えた。
「佐藤」
「ん?」
「ありがとう。たくさん、ありがとう」
俺の好きだった笑顔で里香がそうつぶやいた。
「なんだよ。急に」
「今の私と蒼が幸せなのは佐藤のおかげ」
里香がそんなこと思っているなんて知らなかった。
「じゃぁ、私は一人の夜を満喫するために映画に行くからね。
また同窓会しようね」
そう言って、今さっきの雰囲気をガラリと変えて映画館の方に歩きだした。
「さて。帰るか」
俺は一瞬里香の後ろ姿を見送って。
吉見の手を握って、ゆっくりと歩き出した。
自分でもびっくりするほど里香への気持ちはなくなっていて。
手をつないだ吉見とあの男の事が気になってしょうがなかった。
昼間は天気が良かった空も
日の入りが早くなって、すっかり薄暗い。
繋いだ吉見の手が冷たくて、手をつないだまま俺のコートのポケットに入れた。
俺たちは夕焼けの中、
黙ってお互いの体温を手のひらで感じながら
家までの道のりを歩いた。