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真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし)
【歴史物 官能小説】

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拾陸-5

『このあまっ!』

小太郎は咄嗟に後ろへ跳んだ。沙笑とともに床に倒れ込む。しかし、傀儡女はまだ紐をしっかと握り、絞め続けている。しかも、巧妙に後ろに回り正対しない。小太郎の腕は宙でもがくばかり。紐は喉に強く食い込み、気道をほとんど塞いでいる。このままでは窒息死だ。

『くたばってたまるかっ!』

 小太郎は腕を後ろに回し、沙笑を背負うようにして踏ん張って立ち上がった。そのまま背走して壁に激突する。二度、三度と敵を壁に激しくぶつける。
 しかし、沙笑の手は紐と同化したかのように離れず、ついに小太郎の顔は紫色に変わってきた。両目も飛び出そうである。

『こ、この俺が殺されるだと? …………そんな馬鹿なことがあってたまるか』

気力を振り絞るが、腕は空しく宙に伸びるだけ。そして、ついに小太郎は膝を付き、へたり込みそうになった。が、手が何かに触れた。壁際の床に転がっていた忍刀だった。
 鞘を払い、肩越しに背中の敵を突き刺そうとする。が、沙笑は腕を伸ばして身体を沈め切っ先から逃れる。忍刀には相手の腕を傷つける微かな手応えしか返ってこなかった。
 息詰まりが続き、さしもの小太郎も視界がゆがんできた。しかし、彼も風魔の血を継ぐ上忍だった。ただでは死なぬ。忍刀を逆さに持つと臍(へそ)へ切っ先を当てた。そして、

『おんな! きさまも道連れだ!!』

勢いよく床を蹴って前のめり。刃は小太郎の腹部を貫いた。それだけでなく背に貼り付いていた沙笑の身体をも刺し貫いた。

「ぐっ! ……ぬかった」

身体を沈めていたため、刃はちょうど沙笑の心の臓を貫通した。激烈な衝撃の中、それでも沙笑は相手の様子を窺った。小太郎は口の端に泡(あぶく)をこしらえ、白目を剥いていた。

「よし!」

小太郎の死を確認すると、沙笑は初めて手の力を弛めた。しかし、手は紐をきつく握りしめたままで、自分のものではないようだった。そして、乳房の下から大量の血が噴き出していることに今、気づき、身体全体から感覚が急速に失われてゆくのを自覚した。

「何だよ。……あたしも死ぬのか。……でもまあ、これからは老いるばかり。美しい盛りで命を終えるってのも……これはこれで乙なものか…………」

沙笑の死に顔は、彼女特有の薄く笑ったものであった。


 八魔多は四つの手で首を絞められながら、自由な左手を稀代の首っ玉に伸ばした。そして喉をつかんで五指を食い込ませる。

『やり返しやがったな、この野郎』

体重を掛けて両手にさらなる力を込める稀代。
 八魔多は女を絞め上げようとするも下からだとどうしても手に力が入りづらかった。しかも以前毒針を喰らい万全ではない左腕である。敵は伊代の援護も含めて四本の腕だった。
 分が悪いと悟った八魔多は四肢をばたつかせた。渾身の力で暴れた。しかし、相手は女だてらにすこぶる体格がいい。秘口で魔羅をしっかと銜(くわ)えた稀代の下半身は盤石で、いくら腰を跳ね上げても外れない。右腕を振り回そうとしても伊代の開(ぼぼ)がガッチリと捉えて離さない。伊賀者の忍術の奥義を繰り出そうにも片手なので印を結ぶことが出来ない。さしもの八魔多も切羽詰まった。
 そうしているうちにも娘らの手で喉を圧迫され、八魔多は目眩(めまい)を覚え始めていた。山楝蛇(やまかがし)の婆の『おぬしには死相が見えておる。ゆめゆめ油断するでない』という言葉がふと浮かんだ。

『死相だと?』

八魔多は勃然と怒りが五体に充ち満ちた。総身の筋肉が倍に膨れあがった。
 伊代は女陰に銜え込んだ手がメリメリと奥へねじ入れられ、拳(こぶし)が子宮をゴリリッと突き上げたので強烈な痛みを覚え、つい、膣絞めの力を弛めてしまった。すかさず八魔多の右手が引き抜かれ、それが姉の顔を殴打する。凄まじい拳骨に稀代は一瞬、星が見え、手から力が抜ける。伊代も腕に峻烈な手刀を受け手を離してしまう。
 それでも稀代は万力開(ぼぼ)。たとえ本人の意識が薄らいでも女陰は別の生き物のように魔羅を噛みしめていた。八魔多がいかに腰を振り回そうが外れるものではない。そして、稀代は性懲りもなく、またもや敵の首に両手を掛けた。伊代も八魔多の背後に回り、首を絞めにかかる。
 伊賀者の頭領は、今度は首に群がる手などに頓着せず、両手を前で組み、複雑な印を結んだ。濁声(だみごえ)で呪文も唱える。すると、天井からにわかに霧のようなものが降りてきた。

「こ、これは!」

稀代は急いで女陰の力を弛め、魔羅を吐き出し、跳びすさった。


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