おかえりなさい-3
「なんすか、話って…。」
「あの子とは順調?」
「はっ?」
急に早乙女先輩から呼び出され、人気のない音楽室に居る俺と先輩。
「そんなの、関係ないでしょう!?」
「貴方は私を振った、ある日突然、丁度この場所で。貴方から私を誘うだなんて珍しいと
思いつつも嬉しかった。」
「……。」
「なのにその話題は別れ話、やたら礼儀正しく低調…、でも短絡的で。」
「………。」
確かにその通りだ。失礼のないようなるべく傷つかないようにしたつもりだ、これでも
一度は好きになった人物だし。それ以降特に俺に関わろうとしないのでもう諦めてくれたものだと思っていたのだが、まさかこうして呼び出される何て。
「もう一度、やり直せないかしら?」
「無理だよ、それは貴方が一番知っている筈でしょ?」
「…柊さんね。」
「あぁ、俺は彼女を愛している。」
「どうしてぇ!」
「彼女は似ているんだ、俺と。」
「えっ?」
「俺には母親は居ない、兄貴も海外に行ったっきり帰って来ないし、父親も酒ばっかり
飲んで、親らしい事何一つしない。」
「……。」
「柊さんも、両親が居なく、祖父と二人暮らしなんだ、それで‥。」
今、思い返しても彼女が俺にしてくれた事は…もう。
「貴方にフラれて以来、私なりに色んな人と付き合ったわ、でも…どれもこれもイマイチ
…だから、やっぱり私には。」
「もう一度言う!、俺はもう先輩とは付き合えない。」
「!!」
頼むからこれ以上罪悪感を感じさせないで欲しい。
「悪いけど、もう…俺に関わらないでくれ。」
「………。」
話は弱弱しく途切れ、俺はもう話にならないと思い、一礼して音楽室を後にする。
「うっ……うう、佐伯…君。」
独りポツンと残された彼女。元カノの悲痛な涙に気付いてしまい後ろ髪を引っ張られる
思いをする…。
「へぇー、尾行して見るもんだねぇー。」
ダガ、この時俺は気が付かなかった。
未だ柊さんへの想いを断ち切れないでいる腹黒幼馴染がこのやり取りを盗み聞きしていた事など…。